おひさま「ええ人に拾ってもらえや」そう言って段ボールごと俺を置いて行ったそいつの顔はもう忘れた。というより最初から覚えていなかった。
今まで閉じ込められていた「イエ」は全然おもろなかった。外にも出してもらえへんし、ちっさいケージに入れられてばっか。ストレス発散に、ケージを抜け出して、イエに遊びに来たブスの服ビリビリに破いたったら、ブサイクに追い出された。まあ、あれや、作戦通りや。あんなイエでの腐った生活は忘れて、俺はこれから自由に生きるんや！と思うとめちゃくちゃ清々しい！！
せやけど、門出にしては天気が悪い。朝から雨がしとしとと降り続いていた。元「カイヌシ」の最後の気遣いか、俺の入った段ボールを公園の大きな木の下に置いて行ったので、ずぶ濡れにはならずに済んでいたが。
「グウゥゥゥ」
ノラ生活を楽しんでやろうと奮い立たせた気持ちに反して、腹が情けない音で鳴く。あぁ、腹、減ったな…雨止んだら食えるもん探そ。そんなことを思いながら身体を丸めてじっとしていた。

「お前も、ひとり？」
人間が話しかけて来た。あ？話しかけんなや、俺は今一人で、雨音BGMにして思いにふけっ、とっ、たん…
あれ？雨、やんだ…
「俺もこの街でひとりなんだ。海外修行から帰国して、昨日越してきたばかり。これから新しい生活が始まる。一緒だな！」
カラフルな傘を差した、頭の毛がオレンジ色の人間。そいつの笑顔は雲間から差し込んだ光と共にキラキラ輝き、まるでおひさまのようで、なんやわからんけど、心がポカポカと温かくなった。
「！！ワンワン！ワンワン！！」
こいつや！！直感が叫んだ。段ボールに手を掛けて身を乗り出す。湿った段ボールは体重をかけすぎて破け崩れた。チャンス！すかさずこのおひさまみたいなやつに跳びついたった！
「わっ！！」
傘が転がる。あんたは少し驚いてみせながらも転ばずに俺をしっかり受け止め、ケラケラ笑い、ワシャワシャと撫でて抱き抱えてくれた。かわええー！！俺が抱きしめたい！！すっき！！顔近っ！めっっっっちゃ好み〜！！！しっぽの動きが止まらん〜！！！躊躇なくベロベロと顔中舐め回すとおひさまみたいなやつはさらにケラケラ笑う。
「ハハッ！舐めすぎ！！ハハハハ！！」
可愛すぎてもっと舐めたなるやん！！

そうしてしばらくイチャイチャタイムを楽しんどったのに、突然
「あ、そろそろ行かなきゃ！」
って突然立ち上がろうとするおひさまみたいなやつ。
いやや！！あんたともっと一緒に居りたいねん！Tシャツの裾を引っ張って引き止める。待てや！俺を連れてってや！
「クウゥゥン」
ここで秘技、上目遣い！！しゃがむこいつの腕と腕の隙間に顔をねじ込み、上目遣いキラキラ当社比200%！！！！おまけにちょこっと舌を出してみたら可愛く見えるやろか？伝われ！伝われー！！！！
「…もしかして、お前、俺と一緒に来たいの？」
！！！！！！伝わったーーーー！！！！！！
「いいよ！ひとりで住むのなんだかんだ初めてでちょっと寂しかったから。お前といると楽しくなりそうだし！」
相思相愛やん！！！！
「おいで！俺、日向翔陽！お前の名前は…あとで考えような！これからよろしく！！」
改めて、広げられた両手に飛び込む。気づくと空は晴れていて、世界は俺たちの門出を祝福していた。俺たちは絶対に幸せになる。挨拶がわりにまたべろっべろに舐め倒した。しょうようくん、これからよろしくな！！