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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【ヌビアの子】高校生組と同級生の話 モブ(だけど名前がある)視点

    ##創作

    同級生の話(3年生編)突然だが、自己紹介をしよう。
    僕の名前は、オデル・オーリン。ヌビア学研究所附属大学の附属高校3年生にして、本校生徒会長を務めている。

    ところで、オーリンという名字に聞き覚えはないだろうか?
    ……なに、無い?
    貴様、それでも少しはヌビア学を修めているのだろうな?…まぁいい。貴様のような愚民が、同じヌビア学研究所の地面を踏んでいると思うだけで怖気がするが、この僕の優しさに免じて許してやろう。
    我が母は、あらゆるヌビア学の統括をする、通称『六幹部』の第5位。同時に、このヌビア学研究所附属大学附属高校の理事長でもある。すなわち僕は、理事長子息にして、幼少期よりヌビア学を叩き込まれたエリート中のエリートなのだ。

    全ては、ヌビア復活の後の世界のため。
    右大臣の座をこの僕のものにするために。

    *****

    (くそ、下校が遅くなってしまった)
    僕は舌打ちをしながら、廊下を速歩きに駆け抜けていた。生徒会としての仕事が予想以上に立て込んでしまったのだ。今日は、ヌビア学研究所で実験の様子を見学できると聞いていたのに。
    (間に合わなくなったじゃないか…!)
    実験開始時刻は3時頃を予定していると聞いていた。すでに時計は、3時を10分過ぎている。
    (今日は【カリスマ】を使った実験と聞いていた…人の心を扇動するメカニズムが分かれば、僕の将来に大いに役立つというのに…!)
    途端、手持ちの携帯電話がブーッと音を立てた。立ち止まり、通知の画面を見れば、母からだった。
    『すでに実験は始まっていますよ』
    その一言が目に飛び込んできた瞬間、また一つ舌打ちが飛び出した。あくまで部外者の見学に過ぎないため、僕がいなかったからと言って咎められることはない。それでも、めったに見ることの出来ないヌビア学研究の実験に立ち会う機会を逃したことは、大きな痛手だった。
    『申し訳ございません、母様。生徒会の仕事で間に合いませんでした』
    それだけを送って、僕は三度目の舌打ちをした。

    「あら?オデルさん」

    その声に、僕は弾かれるように振り返った。僕よりいくらか低いところにある、黒髪を切りそろえたおかっぱ頭。僕を見上げる、灰色と赤色の瞳。【ヌビアの子】であることを示す、虹彩異色。
    さらにその隣には、同じく虹彩異色の────明るい緑と深い緑の小柄な頭が見える。
    「ずいぶんイライラした様子だね。何かあったのかな」
    僕に問いかけてきたのはより小さな方────【ヌビアの子/スピード】である、カステル・アンドリア。
    「なにか嫌なことがあったのでしょうか?私でよければ、お話、聞きますよ」
    そう微笑んできたのは、おかっぱの方────【ヌビアの子/知識】である、リヨン・フルヴィユールだった。

    この高等学校には、全300人の生徒がいる。そのうち、4人の生徒が【ヌビアの子】だ。世界に14人しかいない【ヌビアの子】のうち4人と考えれば、その割合が極めて高いことが分かるだろう。
    特に、このカステルとリヨンは同級生でもある。従って、二人がともにいる場面に遭遇することは珍しくもない。とはいえ、その二人に話しかけられるとなれば、話は別だった。

    …まあ、僕は、生徒会長であるため、副会長を務めるリヨンとは頻繁に話をするのだが。

    「……別に、大した要件ではない」
    僕は、ひとまずそう返した。実験そのものを見られないことは遺憾でならないが、代わりに2種類の【ヌビアの子】とじっくり話をする機を得たとなれば、満更悪いことでもない。
    「そうですか?なら良いのですが」
    リヨンは、小首を傾げて微笑む。彼女は、よく、こうして控えめに微笑む。それが何を意味しているのかは、分からない。頭の中にヌビアと同じだけの知識量を備えていながら、何を思って笑っているのか、分からない。
    「いいのかい?このカステルさんが、どーんとオデルくんの話を聞いてあげるのに」
    「結構だよ」
    「そうか」
    カステルは、対照的に豪快に笑った。華奢な体だが、態度はどこまでも堂々としている。これも、ヌビアの子であるという自負がそうさせているのか。僕には分からない。

    ふ、と僕の中に浮かぶものがあった。

    「ああ…一つ聞きたいんだが」
    「ん、なんだい」
    カステルが頷く。僕は続けた。
    「君達【ヌビアの子】同士は、誰がいつ実験をしているのかを把握しているのかい?」
    僕は浮かんだ問を素直に口にした。彼らの他にも、あと10人の【ヌビアの子】がいる。最年長が22歳、最年少が16歳だったはずだ。彼ら同士、どのような繋がりがあるのか。それが、気になった。
    すると、カステルはチラリとリヨンを仰ぎ見た。リヨンは、うふっと笑って目を細める。
    「誰もが把握している、というわけではありませんわ。でも、把握しようと思えば把握できます。研究スケジュールは、内々には公開されていますので」
    「ふぅん──────君達は、把握しているのかい?」
    「私は把握しております。他の方々は、ほとんど把握されていないかと」
    リヨンは言ってから、カステルを見下ろした。カステルは肩を竦めて、「リヨンの言う通りだよ」と頷いた。
    「リヨンは何故、研究スケジュールの把握を?」
    僕が尋ねると、リヨンは満面の笑みで「それは勿論」と目を輝かせる。
    「ヌビア様について、より深く知見を得たいですもの。研究に立ち会える時は、立ち会うこともありますわ。そうでなければ、後で本人に聞くまでです」
    きらり、と、赤色と灰色の瞳が光を弾く。奥が見えないような、奇妙な恐怖を覚えた。

    (何が、怖い?)

    すぐに思い当たった。僕には、奴らがよくわからないのだ。即ち、理解し得ないものへの恐怖。
    奴らは、【ヌビアの子】だ。だというのに、まるで自分はヌビアとは関係ない、という面をする。僕よりもずっとヌビアに近いところにありながら、ヌビアと自分とをまるっきり切り離して考えている。確か、2年生の【ヌビアの子/優しさ】、1年生の【ヌビアの子/記憶】も同じように振る舞っていた。
    僕には理解の出来ない、実験生命。呪いを受けて生まれていると思えば、人間と捉えてよいかさえ不明瞭だ。
    「そうか、………【ヌビアの子】同士は仲が良いようで、羨ましいな」
    「そうかい?悪い気はしないね」
    「ええ」
    カステル、それからリヨンと微笑みあっている。
    得体のしれない生き物たちが同種で群れている。そんなふうに、僕には見えた。
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