まくらゴーッと耳の奥に響く機内の音と、頬に感じる冷たい冷房が、これからの長いフライトのために寝よう寝ようとしていた俺の意思を削いでいく。
俺はこんななのに、と俺の左側で腕を組んで口を薄く開けて事も無げに眠る男をジトリと見つめた。
アイマスクもなし、耳栓もなし、俺みたいにスリッパに履き替えてもないし、ゆるゆるの服を着てる訳でもない。あるのは機内で配られた茶色のブランケット、それだけ。
唯一いつもと違うことと言えば、搭乗前に義手義足のネジの緩みがないかどうかを入念に確認していたぐらいだった。
「ふふ、眉が下がってるよ」
まるで家で寛いでいる時と変わりなくて、少しだけイラッとした俺は、見るからに硬そうなふーふーちゃんの肩にブランケットを適当に丸めて押し当てて、グリグリと顔を押し付けた。
もたれかかろうとすると肘置きが体に当たって痛いから、ふーふーちゃんの肘が置かれていることなんて関係なしにぐい、と持ち上げる。
「ぅお、」
予期せぬ刺激に瞼を開いたふーふーちゃんは驚いたような声を出したあと、まだ状況を飲み込めていないようだった。でも大声を出せないことは分かっているから俺の顔を寝起きの潤んだ目で見つめてくる。
「うき……?寝れないのか?」
「なんかね、目が冴えちゃって……起こすつもり無かったんだけど……」
ふーふーちゃんは自分の右肩にぐしゃぐしゃに丸められたブランケットをそのまま膝の上に置いて均すように何度か撫でた後、ポンポンと2回叩いて見せてくる。
「こちら、当店自慢の枕になります」
「ええ?硬そうなんだけど……?」
「肩にもたれかかって寝るよりはいいと思うぞ?ほらほら、1度お試しください?」
もう、
促されるように頭を優しく撫でられると、さっきまでどこかに行ってしまっていた眠気が来た気がして、その優しい手に頭を委ねて膝の上にぽすん、と頭を載せた。
「ちょっと硬めですか?」
「かなり硬いよ……まって、」
ふわふわモコモコのルームウェアの上着を脱いで、頭の下に追加する。
これなら大丈夫そう。
「お気に召しました?」
「及第点を上げてもいいよ」
「寝れそうか?」
「んん、あたま、撫でてて欲しい……」
その俺の一言に、小さく笑ってゆっくりと頭を撫でてくれる。さっきまで嫌に感じていた機内の音も、頬を冷やす冷房の冷気も忘れてしまったようにトロリと瞼が重く下がっていく。
下がってしまいそうな瞼無理やりこじ開けて、くるりと上を向くように体制を変えた。ゆっくりとふーふーちゃんの綺麗な銀髪にも手を伸ばして、ゆっくりと撫でてやる。
「ふーふーちゃんも、いいこ」
「うきの方がいい子だよ、おやすみ」
おでこをするりと冷たい手で撫でられて、いつもの感覚に安心感を抱いた俺は、今度こそ襲い来る眠気に抗わず、ゆっくりと瞼を閉じた。