思い出の箱には眩しさとばっと背を向けて柱に身を隠した。
「す、好きです!」
鈴の音のように愛らしい声が、澄んだ空気を通って響き渡る。
それはきっと、一世一代の告白。
「ありがとう。でも僕、心に決めた人がいるんだ」
彼の、いつもと変わらない柔らかい声色。
どんなに綺麗な声の人に出会おうと、俺にとってはそれが宇宙で一番の音だった。
図書館に繋がる2階の渡り廊下から、声のしていた中庭あたりをこっそり覗き込む。
そこにはぺこぺこと頭を下げる小柄な女の子と、やっぱり彼の姿があった。
ため息を吐いて柱に隠れる。
俺も、割と告白はされる方だと思う。
比率として男のほうが多いのは非常に不思議なことだが。
またひとつなんでもない息を吐いて、返却するはずだった本とやるせない想いを抱えながら回れ右して屋上に繋がる梯子を登った。
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