寒くなると恋しくなるもの「寒い」これで恐らく20回は超えただろう呟きをあえてスルーして、手元のフィルターに向けて熱湯を注ぐ。豆に湯を含ませる蒸らしを丁寧にするかどうかで香りが変わる、せっかく淹れるのだから美味しいほうがいい。
「寒い」
目先のソファーでケットにくるまりながら、ゴロゴロとまるで芋虫のようになっている何かが、また同じことをつぶやいているが保科は気にしない。
暖房を入れるかと聞いても断られた、なので仕方なしに風呂のスイッチをもつけ、ついでにくるまるためのケットを投げてよこした、これ以上する事はない、とういうか必要上に動かないから余計に寒いんじゃないだろうか。
蒸らし終わったコーヒー豆にゆっくりと湯を注ぐ、湯気と一緒にふわりと漂う柔らかな香りに胸踊る。
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