ルーチェ #1 賢者がくれた贈り物の箱の中には、裁縫で使うまち針が入っていた。ケース入りで、長さ別に五色の玉がついている。作るものによって使い分けができて良さそうだ。
「色々考えたんですが、やっぱりクロエにはお裁縫に関するものがいいかと思って」
「ありがとう! とっても嬉しいよ。まち針はいくらあっても困らないし、折れたり曲がったりしたら交換しないといけないからさ」
クロエは嬉しそうにしながら晶に向かってそう答えた。晶はあまり裁縫に明るくはなく、知識はもとの世界で学校に通っていたときに授業で聞いて覚えていたことにとどまるのだが、クロエからしばしば話を聞くようになってやっと道具の名前や布の種類が少し分かるようになってきた。しかし、その程度といえばその程度だし、針が折れたり曲がったりするということは頭にはなかったので、何の気なしに選んだものに対する思ってもいなかったコメントに晶は興味を抱く。
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