cherish スミスが風邪を引いた。職業柄、体が資本なので健康には人一倍気を使っていても、引くときは引いてしまうのが病というものだ。
じっとりと汗ばんだ白い肌がどこもかしこも真っ赤に染まっている。平熱が高い分、数度上がっただけで高熱になる体はその身をどれ程苛んでいることだろう。
気休め程度ではあるが額に貼ってやった冷却シートもすぐに温くなる。これは、面倒でも冷やしたタオルを小まめに変えてやる方が楽だろうかとイサミが考えていた時だ。
薄く開いた瞼がイサミの姿を捉えた。苦しげに眉が寄り、唇が開く。
「イサミ」
小さく名前を呼んだ声は憐れなほどに枯れていた。耳のいいイサミでなければ聞き落としていたかも知れない。
大方、移るから離れていて、とでも言う気なのだろう。自分が損なわれるよりも、イサミが損なわれることを恐れる男だから。
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