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    ブラウン

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    ブラウン

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    アラ+カラ(双子誕生日)
    双子本人は出てきませんが、誕生日おめでとうSS。
    オムライスの概念がぶっ壊れている人間は私です。
    卵、ケチャップ、ご飯では美味しいオムライスにはなりませんでした。

    オムライスモドキ「アラン、夜食か?」
    「おお、カラムお疲れ〜見回りか?」
    「ああ、お疲れ。で、お前は何を食べているんだ?」
    騎士団の食堂に来たカラムが見たのはアランの目の前に置かれた皿だ。赤いご飯の下に火の通った黄色い卵……色的にはオムライスだが、カラムの知るオムライスの形状とは異なる。包むのに失敗したというわけではなく元々包む気もないスクランブルエッグなのだから。
    「オムライスだ」
    「オムライスは卵が上だ」
    「そうなんだけどさ〜。まぁ細かいことは気にするな」
    「細かいか?」
    「もう一つ皿持ってきてひっくり返せばオムライスと言えるってことだろ?俺用だし、洗い物増やしたくもねぇからこれでいいんだ」
    「……確かにな」
    アランが隣の椅子を引いたのでカラムは腰を下ろした。
    「お前も食う?」
    「いや、私は見回りを終えたら寝るからいい。だが、お前が作ったとしても粗末な物だな」
    「あー……やっぱりそう見えるか?」
    アランはあちゃーと頬を掻く。
    「お前ならもっと上手く作れるだろ」
    アランは料理をごじゃまぜにしても何も思わない人間だが、美的感覚は人並みにある。事実ご馳走になった料理の見た目は問題ない範囲だ。
    だが、今皿に乗っている御飯は『残飯』と言われても頷けてしまう。
    「そうなんだが……あはは。最初はオムライスを作る気は無かったんだ。腹減ったから卵でスクランブルエッグを作って、ケチャップを火にかけてたら今日の双子のこと思い出してな」
    「ああ、ディオスとクロイの誕生日会か」
    「そうそう王族4人からのサプライズのな」
    双子の為にセドリック、プライド、ステイル、ティアラが開いた誕生日会。と言っても大きなものではなく、王族達が休憩を合わせた上、わざわざアーサーとエリックが任務が終わる時間に集まり、生ケーキと紅茶を楽しむささやかで華やかな会だった。
    「ディオスがさ、学校でオムライスを美味しそうに食べてたの思い出してな。したら無性に食べたくなって。で、火にかけていたケチャップに御飯入れて炒めて、スクランブルエッグの上に乗せたのがこれだ」
    「ふっ、そうか」
    真相を聞けば成る程とカラムも納得だった。
    今日のケーキもディオスは目を輝かせ満面の笑みで美味しそうに食べていた。カラムとアランは護衛の為食べなかったが、カラムもそれを見ていたら思わず食べたくなった程だ。アランの気持ちが良く分かる。
    「で、どうだ?」
    「ん?」
    「突発オムライスの味だ。美味しいか?」
    見た目が悪くてもアランの御飯なら美味しいだろう。そう予想して聞けば返事でなく、笑顔でスプーンで掬った突発オムライスを差し出された。
    話を聞いていたら食べたくなった事をアランに見抜かれた。悔しいと思いつつ大人しく邪魔になりそうな髪を押さえてスプーンを口に入れた。
    「………………うん、これはオムライスではないな。スクランブルエッグとケチャップライスだ」
    残念なほど2つの味は別々で口の中で一切混じり合わない。
    「やっぱりそうだよな。肉と玉ねぎぐらい入れりゃよかった〜」
    「ふふっ、だがオムライスと聞かなければこれはこれで味は悪くない」
    「そうか?なら良かった」
    「食べない私が基準でいいのか?」
    「あー、まあ俺は腹に入ればみんな同じだからな」
    「アランはいつもそれだな。少しは一品一品丁寧に舌で味わう事を覚──」
    「あー、はいはい」
    アランは再びスプーンを差し出したので、全くと思いながらも食べる。もう一度食べてもオムライスではなく、見た目通りスクランブルエッグとケチャップライスだ。
    「うん、味は美味しい」
    「ん、そうか」
    アランは食事を再開させた。
    「しかしあの双子本当にそっくりだよな。ヘアピン入れ替わって黙ったらどっちか見分けがつかねえよ」
    「全くだ。その違いが分かるセドリック王弟には本当に脱帽してしまう」
    「ははっ。でも話してみりゃ全然違うんだよな。勿論似てるんだけど、表現が全然違ってさ。その差が面白れぇなって」
    「ふっ、そうだな」
    パクパクと食べながら表情でも言葉でも素直に言うディオスの隣で、静かに味わっていたクロイ、双子でも同じ顔でも中身は全く違う2人。

    悲劇は回避された。
    双子だからこそどちらがどちらの気持ちなのか、思考なのか分からなくなり、溶け合い混ざり合い自我を失い、最終的には新たな自我が形成される未来。
    想像するだけでゾッとする話だ。
    それでは2人は死んだも同然だ。そんな悲劇を見過ごせないのはプライドだけでなくカラム達も同じだった。
    だからこそ2人の違いを見るのはとても嬉しい。
    特に長い時間近くで見ていたアランはそうなのだろう。

    「に、しても。ここの王族達は民思いというか、友達とはいえ民の為に誕生日会を開くほど大切にしてくれるなんてな。あの2人も相当喜んでいたな」
    「ああ、全くだな」
    だからこそ心から慕い、御守りすることを望む。騎士団奇襲事件の前は想像すらしていなかった気持ちだ。
    カラムは前髪を押さえる。やはり自分は今の騎士という位置から見守るのが一番だしっくりくる。

    「やっぱり」
    「ん?」
    「俺はカラムを応援すっぞ、アレ」
    「アラン!」
    「だははっ」
    アランは再びスプーンをカラムに差し出す。
    「たくっ、これはお前の夜食だろ?私が食べてどうする」
    「んー、でもさ。やっぱ誰かと食べたいじゃん、今日ぐらいは」
    なら取り皿くらい使え、そう喉まで出かかって差し出されたオムライスモドキと共に飲み込んだ。

    アランは何も言わないが、もしかしたら双子に家に残して来た幼い弟妹たちを重ねていたのかも知れない。
    誰かに寄り添って貰いたい日がアランにもあったとしても、それが今なのか、違うのか、カラムには判断はつかない。
    どんなに共に過ごしてもカラムから見たアランは、未だ捉らえところのない男だ。そして今後も自分はこの男のことを真に理解することは出来ないのだろう。

    それでいい、私達は他人なのだから。

    全てを理解出来なくても今こうやって隣にいてくれるだけでいい。彼がいない世界などカラムには考えられない。

    「やはりこのオムライスモドキは別々に食べた方がいいな。美味しい個性が反発し合っている」
    「やっぱりか〜。あー、うまいオムライス食いてぇ」
    「明日作るんだな」
    「ん、そうすっか。明日はエリックとアーサーも誘って3人で作っからお前も来いよ。ハリソンは〜、まぁアーサー頼りだな」
    「ハリソンは別として、エリックとアーサーは後輩なのだから迷惑を掛けるなよ」
    「ん」
    「エリックとアーサーに断られても誘った者として後片付けはお前もするんだぞ」
    「ん」
    「寝る前だか作りすぎないように」
    「ん」
    「食べたらちゃんと歯を磨いて寝るんだぞ」
    「わーたって」
    ヒラヒラと手を振って『もう行け』と言われた。
    確かにまだ見回り途中だったなと腰を上げる。
    「ごちそうさま。では明日楽しみにしている」
    「ああ、明日もよろしくな」
    「ん」
    互いに片手を上げて、カラムは再び見回りへと足を進めた。

    前髪を抑えながら息を吐く。
    アランが羨ましいと何度思っただろうか。
    自分は固定概念の塊だ、アランのように柔軟な考えを持つことは知り合ってから何度も試しても未だに出来ない。

    でも「それでいい」とアランは笑うのだろう。
    自分とは全く異なった存在、だからこそ一緒にいると心地が良く強く惹かれてしまうのだから。

    (ディオスクロイ、双子座の総称だ)

    カラムが空を見上げれば幾千もの星が輝いている。
    この途方もない星の中に双子座があるのだろうが、星に詳しくないカラムには見つけられない。明日の休憩時間にでも本で調べようと決めた。


    彼らの名前の由来の星を見つけるために。
    そして明日近衛騎士で見上げよう。
    自分達にとっても特別になった民の名と同じ星座を。


    HAPPY BIRTHDAY ディオス
    HAPPY BIRTHDAY クロイ




    おまけ

    次の日。アランは何処となく肩を落とすカラムを見かけた。
    「どうした?」
    「アラン、今夜みんなと双子座を見ようと調べたら今は見えない時期らしい」
    「そっか、調べてくれたんか、ありがとな」
    自分なら調べるなんてしないからカラムの生真面目さがすげぇと思う。
    「またみんなで集まった時に見りゃいいだろ?機会なんて沢山あるんだからな」
    「そうなのだが、今夜みんなと見たかった」
    その言葉からカラムがどれだけ今日を楽しみにしていたのか分かる。大人に見えてこういう時みんなと共に何かをしたいと言うのは子供じみている。それも誰の前でも吐き出すわけでなく、自分の前でだけだと知っていれば、カラムを慕う騎士達にわりぃなと思いつつ優越感を抱いてしまう。
    「いつだ?」
    「12月ぐらいだ」
    「ならすぐだな」
    「いや、まぁ、そう……だな」
    「そん時にまた集まってやろうぜ。なんなら外で騎士団の打ち上げにすっか!」
    「12月に外でか!?」
    「鍋ならみんな喜んでくるんじゃね?」
    「くっ、本当にアランは」
    ははっと笑うカラムの顔から憂いは取り除かれた。やっぱりお前は笑っていた方がいい。
    俺を始め、騎士団はカラムを必要としているのだからな。お前が来るなら騎士の殆どが参加してくれっだろ。


    こんな楽しい日々がずっと続いて行くように、アランは日々鍛錬し守り続ける。





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