モブおじと知杏数日前に生徒や教師たちで溢れていた永茜美術館は、今日は一般客向けに公開されている。一般客にはアート界隈に身を置く者たちも含まれており、見込みのある未来のプロたちへ声をかける光景もそこらで見られていた。
それを取っ掛りにして仕事へ繋げていくのは、グレーダーの仕事だ。知陽も例に漏れず、自分たちの作品の近くで忙しなく客への応対を繰り返していた。開館から少し経ち客が増えて騒がしくなって来た時、人混みの中に見慣れた後ろ姿が映った気がして、知陽は足を止めた。
「杏寿?」
作品の評価はいらないと言っていた彼が、まさかこういった場へ来るとは。声をかけようとした知陽は、杏寿の様子がおかしいことに気づいた。
じりじりと何かから距離を取るように足を動かしている。何か、を認識した知陽は一瞬顔を歪めて、足早にそちらへ向かった。
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