圭藤♀元気が出ない元気が出ない元気が出ないから元気が出ない学校に行ったら会えるじゃんとか今日だって数時間前までいっしょにいたじゃんとかどうせ明日も朝から練習じゃんとかそういう議論がしたいわけじゃないの元気が出ない元気が出ない、俺の元気が今、出ない!
『葵ちゃんなんか写真送って〜』
『元気出るやつ もうモリッモリ』
『自撮りがいいな〜 あっちょっとえっちな感じでもいいよ〜?』
ポコポコと軽快に動く指とは裏腹に、既読の二文字は全然つかない。しょーーがないよね、葵ちゃんお家帰ったら家族優先だもんね、この時間はごはん食べてお皿洗ってお風呂入れてるんだもんね。
ぶうぶう、と放り出したスマホから、ポコン、と気の抜けた音が響く。
鬼の速さでロックを外せば待ち望んでいたかわいい彼女の写真、ではなく見慣れた顔の見たことのない姿。
「えっこれ俺じゃん!いつ!?いつ撮ったの!?てか寝顔ぶっっさ!!こんなの全然元気出ないんですけどお〜!!」
おかしいだろう、誰もいないこの部屋で、元気の出なかったこの体で、わあわあとわめきながら立ち上がる。
「もっとかっこいい瞬間あったって!ほらあ〜!」
これだけであふれだす感情に、にやにやにやにや、ほっぺたをどろどろ溶かしながら。
***
予想通りの液晶の時刻に、鳴る前のアラームをそっと解除する。保険でかけている一度だけのアラームは、今のところ活躍したことはない。
本来ならばスッとベッドを降りるはずの両脚は、夏用のシーツの心地よさではなく、何か別の感覚に引き止められる。
パッと表示されたロック画面、よく知る人物の見知らぬ笑顔に、ふふ、と笑みは反射でこぼれた。いつもの金髪をだいぶゆるく流して、珍しくはしゃいだピースで小顔を演出。いっしょに写ったアホ面も手伝って、一目で“たのしそう“だとわかる写真だ。
もうひとりの俺が、知らないうちに壁紙に設定したのだろう。
知らないうちにどこかへ行って、知らないうちにふたりで撮って、知らないうちに、知らないうちに。
指が勝手にデータフォルダを開きそうになって、ふと、止まる。
「……せっかくなら、こっちからもサプライズしてやるか」
どうせ、今日もこれから彼女に会うのだ。練習をして、授業を受けて、練習をして、練習をして。
君も俺も野球野球で忙しいけれど、写真の一枚も撮る時間はあるだろう。
パチ、とスマホの画面を黒に戻すと、ルーティンの通りに動き出す。