クロディ 凪いだ海が眼下に横たわっていた。澄み渡る夜の空気の中、控えめな波の音だけがディアスの鼓膜を揺らす。空に浮かぶ一際大きな星が、夜の海に降り注いで揺らめいていた。
視線を落とした先の、崖下に広がる浜辺によく知る少女の背中を見留める。それから、その隣にいる先客の存在に気付き、ディアスは階段に向かいかけていた足を止めた。
決戦を明日に控えて眠れない夜を過ごしているのではないか、と思われた血の繋がらない妹は、既に兄の手を離れ心細い夜を共に乗り越える相手を見付けていた。ディアスが故郷を離れ、マーズ村で彼女と再会するまでに二年の月日が経っていた。人が変わるには充分な時間だ。だから大切な幼馴染みの——レナの隣に誰かがいる事実に、一抹の寂しさのようなものを覚えこそすれ、得心がいかないことは何もなかった。ただ一つ引っかかるところがあるとすれば、彼女の隣に並び立つ人影がディアスの思い描いていた遠い星の青年ではなかったことだけだ。
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