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ドブに距離を置かれている。薄々感じていた疑念が、とうとう確認に変わった。
…
以前なら特段の用も無しに、まるで友人同士のように飯を食いにいくだけの日すらあった。それがここ数ヶ月、顔も合わせていない。交わすメッセージも必要最低限の連絡のみだ。何か特大級のやらかしをして遠方にでも逃げているのだろうか。まさか怪我でもしているのか。だとしても、細々と辛うじて続いている文字のやり取りの中で一言くらいありそうなものだ。悶々とした気持ちの中、流石に対面が必要だろうという案件が立ち上がった。というより、求められた資料の補足説明が文面だとやり辛いだとか何とか適当な理由をこじつけて、直接会う機会をこちらから無理矢理作ったのだ。先週の打ち合わせでは今日落ち合う予定だった。ようやく顔を付き合わせられる。近況を問い質してやると意気込んで指定された場所に向かう、まさにその道中でポケットの中の端末が振動した。
ゴメンやっぱり来週にさせて。
ドブからの直前のドタキャンは意外なことに滅多に無いものだった。互いに忙しい身だが、大門から断りを入れることはあってもドブはなんだかんだ融通を利かせていた。それが今日はどうだ。30分前だぞ。ここ数ヶ月の様子も相まって不信感は頂点に達した。確実に隠し事をしている。別に自分に害がなければ放っておくが、それも判断できない以上は直接確かめるしかない。
新たに定まった目的地へと歩みを早める。向こうが来ないのならこちらが待ち構えればいい。
…
随分と久し振りに大門に会う予定の日だった。避けていることはとっくにバレているだろう。露骨すぎるもんな。ただいざ落ち合う場所に向かおうとした時、脚が重くて仕方なかった。このまま対面したら、絶対追求される。納得するまでてこでも帰ろうとしないであろう男の姿が浮かぶ。ただ理由を素直に言うのは憚られた。1週間でそれっぽい理由を練ろうとしたが脳内の大門が悉く論破してきて全く駄目だった。足取りは重い。やめとくか、と逃げの選択肢が頭に浮かんだ。ただ問題を先送りにするだけの、この数ヶ月何度も打ってきた手を再び繰り返す。時間を守る男のことだ。既に出発しているだろうが勘弁してくれと祈りつつメッセージを飛ばした。既読がつくのは敢えて確認しない。来週。来週までに何か理由をこじつけよう。先送りにしたことで幾分気分が楽になる。せっかく外に出たのだから適当に酒でも買って帰ることにした。何か他のことを考えていなければ。