「あなたが欲しい」 彼を、とても好きだと思う。
――――とても。
遠目からでもすぐに解る人目を引く整った顔立ち。視界の端に捉えるだけで、高鳴る胸は本物。
誰よりも近くに居る事を許されているのに、いまだにふとした仕種にときめいてしまう自分の気持ちも本物。
この想いには本物しかないのに。
――――何故、自分から「あなたが欲しい」と言えないのだろう。
……歌が聞こえる。
かすかに聞こえてくる曲。さほど大きな音ではないが、聞き覚えのあるその優しい曲調に誘われるように、リゼルは浅い眠りに就いていた意識をゆっくりと浮上させた。
薄く目を開けば、見慣れた白い天井が見える。どうやら仕事の電話の応対にリビングを出て行った男を待っている間に、深く躯を受け止めてくれるソファに身を横たえて、そのまま寝入ってしまっていたらしい。
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