吐き出した花を見て、真っ先に思い浮かんだのは綺麗な黄色い髪の女の子じゃなく、螺旋を浮かべ何処までも真っ直ぐに先を見つめるおっかないあの人だった。
「いい加減にしろ。お前がその呪いに罹って既にふた月経った。花吐き病の余命は魔力量に左右されるが長くても三ヶ月。…本来、一線魔道師程度の魔力量しかないお前はそろそろ限界の筈だ。もういつ花に殺されてもおかしくない」
「……言いません」
「言え、ドット」
だって、言ったって。あんたはきっと応えてくれないじゃないか。そしたら、自分のせいで呪解出来なかったって。そんなこと思ってほしくない。言ったら、オーターさんにオレを見殺しにして下さいって言ってる様なもんだ。恋心との無理心中。タチの悪い自殺。そんなもんにこれ以上オーターさんを巻き込みたくなんてない。
見殺しにしたかもだなんて、欠片も思ってほしくない。オレが文不相応にもあんたに恋なんかしちまったから、オレの責任なんだ。代わりに背負ってほしくなんかない。もし、そんな事になるくらいならやっぱりこのまま抱えて死んでやる。だから、
「…い、言わねぇ」
絶対。オーターさんにだけは、
「いいたくないっ、」
鼻の奥がツンとして、ぽろぽろと涙が溢れていく。泣けば見逃してもらえるなんて思わないが、でも勝手に出てきたそれが情けないとは思うからぐしぐしと袖で痛いくらいに拭っていく。
「……分かった」
「……」
「そこまで言いたくないのなら、もう聞かん」
「! じゃあ、」
「その代わり、そいつに関する記憶を全て消す」
「……は?」
消す? オレの頭の中から、オーターさんが、オーターさんの記憶を消す。
「何で…」
「それはまだ不明な点も多いが、罹る原因は判明している。誰かへの恋情だ。なら、それを無くせばいい」
「まって、くださ…、やだ、」
そんなの、オーターさんを忘れるなんて。
「感情だけを消し去ってもまた再発する可能性がある。それならばその人物の記憶ごと消す。封印魔法では何かの拍子に思い出しかねない。しかしそれでは意味がない。なので忘却魔法で消す」
そりゃオーターさんの魔力量で忘却魔法なんか掛けられたた暁には綺麗さっぱり忘れるだろう。