隠しきれない恋心(つべ🍁🐳)ある日の休日、ずっと部屋で寝ていたクロノは空腹に目を覚ました。ぐぅ、と腹の虫が鳴る。外食という発想が無いクロノは着替えて食堂に向かった。
何を食べようか、と考えながら廊下を歩くクロノは聞き覚えのある声に足を止めた。声のする方へ向かうと案の定スマホンがいた。隣にはアカバが右手で口を塞ぎ、面倒臭さそうにスマホンに向けて左手を振っている。アカバが喋らないという摩訶不思議な状況に首を傾げ、クロノは声を掛けた。
「アカバ、スマホン、任務帰りか?お疲れ」
「クロノさん!はい、先程報告完了しました!」
「……」
「?アカバ、どうした?具合悪いのか?」
「(ブンブン)」
いつもなら「楽勝じゃ!」とからから笑うアカバが押し黙っている。体調不良かと心配すると首を横に振り否定した。じゃあ何だ、と訝しげに眉を顰めるクロノと目を逸らすアカバ。見かねたスマホンが音声を発声させる。
「実はですね、先程の任務で本音しか話せなくされてしまったんです」
「え?」
アカバが受けた任務はこうだ。
救出対象は、本音を全て配信で暴露した事がショックで亡くなったある女性VTuber。何度も巻き戻し、本音しか喋れなくさせる錠剤を飲んでいた事が発覚。犯人も無事捕まえ、救出対象も救えたのだが…。
「最後の最後、犯人が適当に投げた錠剤がターゲットの口に入りそうになり、咄嗟に間に入ったアカバさんが飲んでしまって」
「何だその死因…。じゃあ今アカバは本音しか言えないから口塞いでるのか」
まるで某猫型ロボットの秘密道具みたいだ。
アカバの方に視線をやるとやはり口を手で覆ったまま、スマホンを睨んでいる。自分のヘマをバラされた事に怒っているようだ。
クロノはそんなアカバと過去の言動を思い返し、口を開いた。
「なぁ、別に支障は無いんじゃないか?アカバはいつも本心から話してるだろ?」
ピタッとアカバとスマホンの動きが止まり、気まずげに明後日の方向に視線を逸らした。クロノはそんな2人の様子にますます首を傾げる。自分はそんなに変なことを言ったのだろうか。
クロノはジッと目を合わせようとしない2人を見つめる。目力が強いから、見つめられると圧を感じる。最初に限界がきたのはスマホンだった。そもそもスマホンは、担当している巻戻士の中で最もクロノと一緒に任務に赴く事が多い。その為なのかクロノに甘いところがある。しかし、任務中に判明したアカバの本心を勝手に言うのははばかられた。結果…
「ぼく!点検の予定があったので失礼します!!アカバさんは効果が切れるまで自室待機なので、外出禁止ですよ?!それでは!」
「あ、おいスマホン!?」
ビュンッとスマホンがプロペラをフル稼働して逃走した。その場には怒りで震えるアカバとポカンと廊下の先を見つめるクロノの2人。アカバはチラリとクロノの方を見ると、無言で自室へと足を向ける。クロノはそんなアカバに気付き、後を追った。
隣に並んで歩くクロノを視界に収めたアカバが空いてる左手でスマホを取り出し操作する。素早く文字を打ち込むと画面をクロノの方に向けた。
『何で着いてくる』
特徴的な口調は打ち込まれていない。少し違和感を感じつつクロノは返事をする。
「何でって、よく分からないけどアカバは喋りたくないんだろ?話しかけられた時、おれが事情説明しないと」
生真面目に答えるクロノに冷やかしやからかいは感じられない。
自分と同じような状況に陥った人が居たら話しかけたりしそうなものだ。アカバ自身、こうなったのがクロノやレモン達だったら何か喋らせようとするだろうから。
そういう生真面目で優しいところが
「好きなんじゃよなぁ…」
「え?」
気づいたら手が口から離れていた。本心が口から零れる。クロノはキョトンとアカバを見ていた。
(…可愛い)
か、まで言いかけて慌てて口を手で覆う。クロノは聞こえていなかったのか、「さっき何て言ったんだ?」とのんきに尋ねてくる。アカバは急いでスマホに文字を打った。
『何でもない』
「…そうか?」
幸いな事に、友人達とすれ違うことなく部屋まで辿り着いた。幸い効果は長くなく、服用から12時間で消えるらしい。
部屋に着いたことにアカバは安堵し、ずっと隣にいたクロノの方に振り返る。道中聞いてみたところ、クロノは昼食を食べに行く途中だったと言っていた。自分のために昼食を後回しにしてくれたので、アカバも感謝してやらないこともなかった。気恥しいので、スマホには簡潔にお礼を入力する。さぁ見せようとした時、クロノが話しかけた。
「今のアカバの言葉は、アカバの本心なんだよな」
アカバは何だ今更、と疑問に思いつつ首肯する。肯定したアカバを見てクロノは考え込むように顎に手を当てた。下手な事言う前にさっさと部屋に戻りたいアカバであったが、流石に無言で戻るわけにも行かない。クロノを待つ事にした。
クロノが考えを纏めるのに時間は掛からなかった。うん、と一つ頷いた後アカバに向き直る。
力強く、こちらを見透かすように射抜く瞳がアカバを捉える。手を握られ、ドキリと心臓が高鳴ったアカバを置いてクロノは言葉を紡いだ。
「おれも好きだ」
***
─さて、本部に帰りましょう!と言いたい所ですが…アカバさん、大丈夫ですか?
─問題ないわ。そもそも彼奴も半日で効果消える言うとったじゃろ。じゃあそこまで気にすることじゃないじゃろ
─あ、思ったより大丈夫そうですね。まぁ次の任務は半日後になるでしょうし、部屋で大人しくしてましょう
─クロノは今日休みじゃったよな?叩き起して一緒に過ごしても問題ないよな
─え?まぁそこは隊長に確認しないと…。あ、レモンさん達も呼びますか?任務の合間になるので少しの間だけでしょうけど
─呼ばん。クロノを独り占めしたいからの
─独り占め…?クロノさんを…??
─好きなやつ独占したいと思うのは普通じゃろ。………っ!!?!
─だ、大丈夫ですアカバさん!ぼくは何も聞いてませんから!!