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    以前書いたSSから三年後の話
    師弟逆転if🍠🐳(🤕🔨🥇が🐳の弟子)

    三年越しの約束十七歳の時、告白したらクロノは「大人になってもまだ好きだったら恋人になる」と約束してくれた。
    あれから三年、シライは二十歳になった。成人だ、大人の仲間入りしたのだ。
    シライは嬉々として己の師であるクロノの元へ向かう。隣に浮遊するクロホンはそんな相棒を微笑ましげに見ていた。

    ***

    自室に行ったが不在らしい。まだ任務の時間ではない筈なのに何処に行ったのだろうかと首を傾げていると、隣室の扉が開きアカバが出てくる。

    「ん?シライじゃないか。クロノ探しとるなら、訓練室に居るぞ」
    「訓練室?何でまた」
    「あー、ほら、弟子三人の指導じゃ。彼奴ら問題児共じゃからのぉ」

    弟子三人、という言葉にシライは眉間にしわを寄せる。クロノが任務先で拾ってきたハイザキ、グレイ、キンスケのことだ。
    アカバが問題児と称した彼らは師であるクロノ以外に全く懐かない挙句、お互いに仲が悪すぎる。シライにとっても弟弟子と妹弟子に当たるのだが、こちらもこちらで仲が悪い。

    原因はクロノの取り合いだ。

    ちなみにそれをクロノ以外の全員が知っているが誰もクロノに伝えていない。隊長であるゴローやクロノの同期かつ親友のアカバとレモンも言っていない。相棒であるスマホンでさえもだ。
    アカバは目の前であからさまに不機嫌になるクロノの一番弟子を見て、こっそり溜息をつく。

    (何でクロノの弟子は全員態度があからさまな上に敬語もなってないんじゃ)

    唯一ハイザキは敬語を使うのだが、彼はそういう口調なだけであって敬意を払っている訳では無い。閑話休題。シライはアカバに礼を言うと、クロホンを連れ訓練室に走っていった。

    「…そういや、今年がシライがクロノと約束した年じゃったな」

    シライがあの三人に邪魔される未来が簡単に想像出来て、アカバはうんざりしつつ転送室に向かった。

    ***

    「クロノっ!」
    「シライ」

    全速力で訓練室に飛び込んできたシライに、その場にいたクロノ以外の全員が目を丸くして振り返る。周囲の視線など気にも止めず、シライは速度を緩めずクロノの元へ向かう。クロノもシライとの約束を覚えていて、思い出してもいたのだろう。少し緊張気味にシライが目の前に来るのを待っている。

    年々背が伸びたシライは、今やクロノとあまり身長差がない。もしかしたら身長が負けているのかもしれない、とクロノは頭の隅に考える。ついぞアカバの身長を越せず成長が止まってしまった事は若干不服だが、シライの成長は師として微笑ましく思える。
    つらつらそんな事を考えてる間に短い距離を詰めたシライがクロノの目を真っ直ぐ見つめる。

    「クロノ、おれと─

    パァンドコォッズダダ

    …ッチ!」

    クロノを囲んでいた三人の弟子がシライ目掛けて一斉に攻撃を放つ。シライは舌打ちをしつつ全ての攻撃をあっさり凌いだ。

    「お前ら止めろ!」

    師の言葉すら耳に入っていないのか、弟子達は全員次の攻撃の為に構える。訓練室は一瞬で緊張感が漂った。流れ弾を食らったら笑い話にもならない上、無闇に訓練室を壊したら隊長のゴローによる説教が待っている。四人の次の行動に反応出来るようにその場の全員が構えていると、力強い声が訓練室に響く。

    開眼バージョンアップ複製コピー!!」

    バチッ!とクロノの右眼のリトライアイが強く瞬き、もう一人─三分後─のクロノが現れる。二人のクロノは両手の拳を握り、大きく振り上げると…。

    「「いい加減にしろ!!」」

    弟子達の頭を思いっきり殴った。

    ***

    「「全員正座」」
    「「「はい…」」」「…おう」

    頭頂部に大きなたんこぶを一つこさえた彼らは、クロノの前に素直に正座した。ずっとクロノの隣で浮遊してたスマホンはため息を吐く。クロホンもシライの左上を呆れの表情を表示させて浮遊している。

    訓練室の片隅で不機嫌を隠しもせず仁王立ちする二人のクロノの前に、たんこぶを作って正座する四人の弟子達という、なんとも奇妙な光景が繰り広げられていた。
    弟子達にとってマシだったのは、訓練室を利用している全員が己の訓練に集中して視線を感じないことだろうか。実際は全員が全員、耳をダンボにして師弟のやり取りに意識を向けているのだが。

    「ハイザキ、グレイ、キンスケ」
    「「「はい…」」」
    「いつも言ってるが、仲間を攻撃するのを止めろ。怪我したらどうする」
    「すみません…」「…ごめん」「ごめんなさい」

    いつもなのか、と当事者以外の全員が一斉に心の中でツッコむ。

    「シライ」
    「…ん」
    「コイツらを止められなくてすまん。怪我なくて良かった。ただ、その後に武器を構えるな」
    「…わりぃ」

    「おれに謝ってどうする」と言うクロノの言葉に、渋々…嫌々…、ほんっとに不本意そうにお互いに謝罪した。

    「なんでお前らは仲良く出来ないんだ…」

    クロノは若干疲れたようにボヤく。スマホンとクロホンが慰めるようにクロノの周囲をくるくる回り、三分後のクロノもポンと肩を叩いた。その時、今の時間のクロノの身体が徐々に消え、三分前にタイムスリップした。

    「それで、何で急にお前らはシライに武器を向けたんだ」

    クロノが一人になると、クロノにとって最大の疑問であり、クロノ以外の全員が分かっている事を問いかける。ハイザキ、グレイ、キンスケは口篭りなんと答えようか考えている。その間もクロノはじっっと三人を見つめる。圧に耐えられず口を開く前に、レモンが現れた。

    「クロノ、そろそろ修行を切り上げて」
    「レモン?まだ任務の時間じゃないよな?」
    「まだ時間に余裕はあるけど、修行つけて直ぐに任務だと大変かと思って」
    「ありがとう。それじゃあ、少し寝るか」

    続きは後でな、とクロノは告げるとスマホンと訓練室を後にする。レモンはシライ達をチラリと一瞥した後、無言でクロノの後を追った。

    ***

    シライは過去最悪の機嫌の悪さだった。
    あの後もクロノに告白しようとする度に何処からかハイザキ、グレイ、キンスケが別々にもしくは二人か全員で同時に現れては邪魔をしてくる。流石に懲りたのだろう、武器を振りかざすことはなかった。
    その代わりに弟子の立場を悪用してくるのだ。クロノは師匠として弟子に質問や指導を請われたらそれに真摯に付き合う。だからこそ、それを使われるとシライは我慢せざるを得なかった。うっかり「後でも良いだろ」と言おうものならクロノに叱られると分かっているから。

    シライはカフェテリアでガジガジとストローを噛んでいた。コップの中はもう空っぽなのだが、気付いていない。クロホンは不憫そうに不機嫌な相棒を見ている。コツコツと、足音がシライ達の方に近づいてきた。

    「シライ、クロホン。任務お疲れ!相席良いかな?」
    「おー、良いぜ。トキネもお疲れ」

    シライとクロホンに笑顔で話しかけたのは師匠であり想い人であるクロノの妹、トキネ。確かクロノが巻戻士を目指す切っ掛けだと過去に言っていた気がする。

    「遅くなっちゃったけど、成人おめでとう!」
    「おう、ありが十匹」

    しら〜と周りの空気が凍りつく。クロホンは「シラケてるぞ」と言い、トキネは苦笑いを浮かべている。気を取り直すようにトキネが飲み物に口を付けた。ホットにして正解だったと内心呟き、一口飲むとシライに向き直る。

    「それで、お兄ちゃんに告白は出来た?」

    ビシッとシライの身体が固まる。クロホンは苦笑いだ。トキネはそんな一人と一機の様子で察したらしい。

    「まだなんだ。意外…でもないか。ハイザキくん達に邪魔されてるんでしょ」
    「アイツら、何処からともなく現れて邪魔してくるんだよ…。巫山戯んな」

    あはは…、と乾いた笑みを浮かべてトキネは再び飲み物を口に含む。
    トキネは妹として、兄に幸せになって欲しいと思っている。兄は誰よりも優しい人だというのは、妹であるトキネが一番知っている。何度も助けてくれたから。
    チラリとシライへ視線を向ける。ぶつぶつと文句を言ってる年下の青年。

    シライがクロノを好いていることは、クロノから弟子だと言ってシライを紹介された時から気づいていた。
    あれから五年。シライは変わらずクロノを好きでいる。一度振られて以降もずっとクロノを好きと言い続けてた。

    『絆されたわけではない、と思う』
    兄はシライに告白された半年後にそう言っていた。恋愛にあまり関心の無い兄からの恋愛相談に衝撃を受けたから覚えている。
    嬉しかった。ずっと好きでい続けたシライなら兄を任せても問題はずだ。
    トキネはニコッと太陽のような明るい笑顔をシライに向ける。

    「わたしに任せて!」

    ***

    数日後、シライはクロノの自室に居た。
    それぞれの相棒達は今は居ない。

    クロノの自室で寝泊まりしたことだってあるのに、今日告白するのだと決意してるだけに緊張する。緊張を誤魔化すようにぐるりと部屋を見回した。
    クロノは無趣味だが部屋は雑多に物が置かれている。友人達がクロノにと色々渡しているからだ。シライ自身、クロノに何度かプレゼントを渡している。ダジャレ本を渡した時に苦笑いされたのは遺憾の意だったが。

    「シライ、どうした?」
    「ん…いや、最後に来た時より物が増えたなって」
    「あぁ、初任給貰ったからってプレゼントされたんだ。よく気付いたな」
    「元々お前の物って少ねぇから、なんか増えてたらすぐ気付くだろ」

    ドクドクと煩いくらいだった心臓が少し落ち着いた。クロノの低く、穏やかな声色はいつだってシライに安心を与えてくれる。一つ深く呼吸をする。今日は特級であるシライとクロノの二人の休みが重なるという奇跡的な日だ。いつも邪魔してくる三人も任務で居ない。告白するなら、今しかない。

    「クロノ」

    シライの決意が籠った声に、クロノは腰掛けていたベッドから静かに立ち上がる。シライの目を真っ直ぐ見つめ、続きを促す。シライは大きく息を吸った。

    「好きだ。五年前、助けられたあの日からずっと好きだ。クロノに早く追いつきたくて剣術も極めたし、クロノみたいに全員救えるように強くなった。クロノの隣に立っても誰にも文句言わせないくらいになった、と思う」

    「今までもこれからも、変わらずクロノのことを愛してる。絶対クロノを不幸にさせない。だから、その…おれと結婚してください!」

    頬が燃えるように熱い。途中から無意識に視線が下がってしまい足元しか見えない。クロノの顔が見ようにも、金縛りにあったみたいに動けなかった。

    …沈黙が辛い。
    お互い口数が多い方では無いから、無言になる事だって今までにもあったし、それが苦痛に思った事は一度だって無かったのに。バクバクと心臓が痛いくらいに高鳴ってる。静かな部屋に自分の心音が響いてる気がする。
    沈黙を破ったのはクロノだった。

    「…おれは二十七で、そろそろ三十路だ。おっさんだけど、本当におれで良いのか?」
    「クロノで良いんじゃなくて、クロノが良いんだよ!おれの好きな人を否定するようなこと言うな!!……って、え…?」

    自分の想いを否定されたような気がして、勢いよく顔を上げる。視界に収めたクロノの顔を見て、驚いた。…クロノの頬がほんのり赤かったからだ。
    てっきり三年前と同じで困ったような表情をしているものだとばかり思っていただけに、赤面は予想外だった。初めて見る表情だった。照れている様が可愛かった。思わず「可愛い」という言葉が口からこぼれ落ちる。

    「可愛くないから、揶揄うな」
    「からかってねぇ。本心だ」
    「本当止めろ…。あぁ、もう、まさか告白より先にプロポーズされるとは思わなかったぞ」

    プロポーズ、という言葉に先程自分が結婚してくれと言ってしまったことに気付いた。まだ交際すら了承されていないのに。

    「あ、えっと、気持ちが先走って…!でも、クロノが良いなら結婚したい」
    「はは、まず恋人からだな」
    「!それって!」
    「…おれも、シライのこと好きだよ。一度振ったのに、変わらず好きでいてくれてありがとう」
    「…っ!」

    シライは感極まって、クロノに抱きついた。ぎゅう…っと、力強く抱きしめてしまったが、クロノは笑ってシライの背に手を回してくれた。

    好き、大好き、愛してる。

    感情は渦巻いて口元が綻ぶ。グリグリとクロノの側頭部に頭を擦り寄せていると、クロノの背が自分より若干低い事に気付いた。若干、と言っても五センチにも満たない差だったが。
    あんなに大きな背中に思っていたのに、と少し驚いているシライの肩をポンポンと軽く叩かれる。「離せ」という意味だと理解出来たので、もう一度強く抱きしめてから両腕を下ろした。
    名残惜しかったが、恋人になったのならいつでも抱きしめられるかと思い直したため、素直に下ろしたのだがクロノは気付いていないだろう。呑気に話し出した。

    「それにしても、五年前からおれのこと好きだったのか」

    クロノはほんのり頬を赤らめたまま、シライに笑みを向ける。そんなクロノの表情にドキリと心臓が高鳴った。照れ隠しに、シライはクロノがずっと知らなかった事を伝える。

    「おれがクロノを好きって、お前以外の全員気付いてたぞ」
    「え、そうなのか?…あ、それで今日……」
    「今日?今日はどっちも休暇だよな?それがどうかしたのか?」
    「隊長から言われてないのか?本当はおれもシライも任務だったけど、アカバとレモンが変わってくれたんだぞ」
    「はぁ?!何も聞いてねぇぞ?!今日が休みだって、クロホンから聞かされただけだし」
    「だとしても一度隊長の所に行けって教えただろ…」

    クロホン、またシライを甘やかしたな…。と内心呟く。後でクロホンに話をしないといけなくなった。

    「あいつらの任務にトキネが行くって言ってたのも、この為だったんだなぁ」

    本来、クロノは自分の任務の他に弟子達の任務にも同行する予定だった。それをトキネが代わってくれたのだ。だから今日、本部に弟子達は居ない。告白を妨害する者は一人も居ないのだ。
    しみじみと呟くクロノの言葉に、シライは今日この日がトキネによってセッティングされていた事に気付いた。そういえば、休日は基本的に寝て過ごすクロノが珍しく起きていたし、シライが扉をノックすると直ぐに扉を開けてきた。緊張のあまり気付かなかった事実に、シライはまさか、とクロノに問いかける。

    「クロノ、今日、もしかしてトキネからおれが来るって聞いてたのか…?」
    「おう。シライがおれに用があるからって。この前言いはぐった告白のこと、トキネに相談してたな?」

    シライは顔を真っ赤にする。何もかも、トキネの手のひらの上だったのだ。挙句、クロノ本人もシライが告白しに来た事に気付いていたらしい。口をパクパクさせているシライを見て、肩を震わせて笑っている。自分は恥ずかしいやら悔しいやらで動揺しまくっているのに、余裕そうな恋人に腹が立ってきた。

    なんとか調子を崩してやりたい。シライはクスクス笑う恋人の胸ぐらを掴み引き寄せると、噛み付くようにキスをした。
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