頼若(叶わない方のやつ)「好きです。頼重殿」
「この気持ちが正しい判断なんて思ってはいない」
「でもだからって諦めきれるわけないじゃないですか…」
俯いたまま小袖の裾をぎゅうと握る。
小刻みに震える肩と見えなくても目に涙を溜めているのが分かる。
「時行様、私は貴方様の御気持ちを受け取ることはできませぬ」
頼重はしゃがみ、目線を合わせると力いっぱい握りしめていた時行の拳を優しく解くと、両の手をそっと自分の手に重ねる。
「その御気持ちはとても嬉しゅうございます。しかし、貴方様は北条家の現当主であり、託された未来があるのです。」
覗き込むように見つめる頼重の瞳。
あまりに優しい眼差しで、言ってることは全部正しくて、我儘なんてわかってて
「……わか、ってる……でも、私はこんなにも貴方を欲しているのに…」
声色が震えている。
理屈を並べ納得できることなら幾らだって飲み込んだ。
「あんまりじゃないか………こんな気持ち初めてなのに…私だってどうしたらいいか分からない……ッ…のに….」
ばっと顔を上げると、目を細め眉を寄せている頼重がそこにいた。
「……ッッ」
伝えれば伝えるほど頼重を困らせていることにすぐに気づいた。
どうして、なぜ、思い合うことが行けないことなのだろうか。
自分が子供だからか、北条の嫡子だからか、乱世だから?
「…私には分からない…私を突き放すのにどうしてそんな顔をするんですか…?!私が主君だから?!傷つけたくないとでも言うのですか……ッ?貴方は私を突き放すのにッ?」
「………」
包まれていた手を乱暴に振り払う。
頼重は何も言わずにひたすらに見つめ続ける。
何を言っても時行の気持ちに終わりを与えてしまうのが分かっているから、何も言わないのだ。
「そうやって貴方はいつだって私に優しい…優しいことが全て正しいと思わないでください……ッ受け入れてくれないなら嫌いにならせてっ……優しくしないで………」
酷いことを言ってるのも分かってた。
自分都合だということも分かっていた。
それでも、自分の言葉で辛そうな顔をする頼重がただ一つ、それだけは自分のものだと思えたから。
「申し訳、ございませぬ」
拳を1度握りしめ、解き、そして頬に触れる。
(あぁ、この人が好きだ。)
(この方をお慕いしてしまった)
ボロボロと溢れ落ちる涙を拭おうとすればその手を払う。
「御免なさい」
そういうと部屋から立ち去った。