海と宇宙飛行士穏やかな波の音が鳴る海岸に大きな墜落事故の音が響く
その船はボロボロに壊れており、修復は難しいだろう
煙の中心から現れた彼は辺りを見回し周囲を確認すると、広い海に目を向ける
途方に暮れ呆然とする彼はすぐ近くにあった岩の傍に座り込みこれからどうしようかと悩んでいた
すると、突然岩の下から声が聞こえてくる
「ねえ、貴方人間?どこから来たの?」
漣のような声の方へ目を向けるとそこにはいつの間にか現れた少女がこちらを好奇な目で見つめてきた
どこから現れたか分からない正体不明の少女を警戒していると、彼女はくすくすと笑いながら警戒心を解きほぐすように語りかけてくる
「私、海に住んでるんだけどね
人間なんてここ数年で久しぶりに見たわ
貴方名前は?」
彼女はこちらにそう問いを投げ掛けてくるが、彼は答えなかった
何故なら見ず知らずの怪しい人物に名前を明かすなど以ての外
なにより、彼は自分の名前すら知らなかったのだ
墜落事故の時に頭を打ったのが原因かもしれないし、もっと前から知らなかったのかもしれない
彼は思考を巡らせて結局「知らない」と答えた
「貴方自分の名前もわからないのね
まあ私も私の名前知らないんだけどね
皆からは海って呼ばれてるよ」
海と名乗る彼女は輝く黄金のサンゴの冠を身につけ不思議なドレスを着ている
なにより目を引くのは、ドレスの先が海と繋がっている所だ
その姿はまるで海の女王様のようである
海は名前が無いと呼ぶ時困るわね、とうんうん唸りながらしばらくして彼にこう名付けたのである
「貴方宇宙から来たんでしょ?
知ってる!こういう人の事、宇宙飛行士って言うんでしょ?
じゃあ、貴方は今から宇宙飛行士さんね!」
異論は認めないわ、と得意げに胸を張り楽しそうにする彼女の笑顔は水面のように輝く
宇宙飛行士はようやく被っていたヘルメットを外し顔を見せた
今や猫の手も借りたい状況だろう
観念して、よろしくと一言呟いた
「やだー!貴方凄く綺麗なお顔してたのね!
隠してたなんて勿体ない!
これからはその被り物取ってよ!」
海はきゃあきゃあと黄色い声を上げながら宇宙飛行士のヘルメットを手に取り、渡さないぞ!というように胸元に抱える
宇宙飛行士は困ったように返してくれと頼むと、海は渋々差し出し「持っててもいいけど私の前ではヘルメット無し!これは女王命令よ!」
と頬を膨らませた
ふと、女王という言葉に疑問を抱き質問をしてみると
「うん、私ここの星の女王様なのよ!すこいでしょ!」とどこからともなく取り出したトライデントを掲げた
宇宙飛行士は無礼を働いたかと尋ねると、「いいの!私お堅いの好きじゃないから気軽にお話してね」とトライデントを仕舞いながらそう言うと、宇宙飛行士の隣に座り
「ねえ、宇宙のお話聞かせてよ
私、ずっと聞きたかったの」
と空を見上げながら切なそうにそう言った