髪の毛 休日の昼時。カーテンから太陽の輝きが漏れている。それでもお構いなしにベッドの上でだらだら過ごす。
髪を引っ張られる感覚で脳が覚醒する。そんなことをする犯人は、今私に背中を向けながら、私の左腕の中に収まっている彼女だ。髪の束を作っては筆のように空中をなぞり、かと思えば、バラバラとその束を広げている。なにが楽しいのか、かれこれ何十分も続けている。
「それ、楽しい?」
上になっている右腕で抱きしめながら声をかける。
「ん?起きたの?」
彼女は手を止めて、こちらを向こうともぞもぞ動く。それを察して、抱きしめた腕の力を緩める。
「うん。おはよ」
「おはよ」
柔らかい笑顔を向けこちらを見つめたまま、抱きしめ返される。すると、私の後ろに伸ばした彼女の手が、再び髪をつかみ始める。
1923