チョコレート夕方四時になると、レスター、リドナー、僕の順番で休憩を15分程取る。
自分の番が来たので、リビング兼休憩室に行き、コーヒーを淹れて、ダイニングチェアに座った。
コーヒーを飲みながらぼんやりしていると、ニアが来て、テーブルを挟んで向かい側の椅子に座った。ニアは人と目を合わさないし、業務外での私語もほとんど交わさないが、気まぐれでこうやって人の側に寄って来たりする。要するに気分屋なのだ。
僕は席を立ち、ニアのために紅茶を淹れる。
そして、電気ポットの隣に置いてあったお菓子の缶に気付いた。
リドナーの差し入れだ。夏休み、友達と有名なお菓子の会社の工場見学に行ったらしく、そのお土産にと、買ってきてくれた。
ニアは甘いものは嫌いだが、まあ一緒に持って行くか。
お菓子の缶と紅茶を淹れたカップを手に、テーブルに戻る。
紅茶をニアの前に置き、椅子に座り、缶の蓋を開けてみる。
中に敷き詰められたクッキーやチョコレートは半分程減っているが、まだまだある。
金粉でデコレーションされた四角いチョコを手に取ってみると、冷房を効かせていても暑いせいか、少し溶けていて、指にチョコレートがついた。
せっかくの高級菓子だし、冷蔵庫に入れるとチョコレートの風味は落ちるから、外に出していたのだが、早く食べ切った方がいいかもしれない。
僕はそのチョコレートを口に入れ、ニアにも缶を差し出してみる。
「ニアもお一つどうですか?」
「甘いものは嫌いです」
予想通りの答えが返ってくる。
「そう言わずに。上品な甘さで、美味しいですよ」
僕はそう言って、美味しさを証明するかのように、もう一粒手に取って口に入れる。少し苦い。ビターチョコレートか。
「ほら、これなんて甘さ控えめですよ」
右手で缶を持ってニアの方に差し出しつつ、左手でいま食べたビターチョコレートと同じ種類のチョコレートを指差す。
すると、ニアはテーブル越しに僕の左腕を引っ張り、チョコレートが付いた僕の人差し指を口に含み、舐める。
びっくりして、リビングと部屋が繋がっているモニタールームの方を見る。
レスターもリドナーもモニターに向かっていて、気付いていない。
指を這うニアの舌の感触に、ドキドキする。
ニアは指から口を離し、
「ジェバンニの味がします」
と言った。
……なんだそれ。
キスはさせてくれない癖に、煽るのは上手いんだから。
狡いよ、ニア。