災い転じて福となせ! 開店前の静かなビデオ屋。カシャカシャとビデオのハードカバーが触れ合う音と小さな鼻歌が響く。「おはよー……」と眠たげな目を擦りながら階段を降りてきたリンは、カウンターの中で機嫌よく開店準備をするアキラと目が合うなり怪訝な顔をした。
「うわあ」
「おはようリン。お兄ちゃんに対していきなりうわあはないだろう。朝ごはんはそっちのテーブルに置いてあるよ」
「あ、ありがと。じゃなくて! 随分とご機嫌だね?お兄ちゃんが朝からテンション高いとなんか違和感って言うかぁ……」
「そうかい?」
「そうだよ! 鼻歌なんか歌っちゃって。わ、もうコーヒーまで買ってあるし!」
作業部屋に入るなり、彼女はもう一度うわあと声を上げた。今度は喜色が色濃く滲んでいる。そうだろう。妹の好物のひとつであるエビアボカドサンドは、六分街のコンビニにはごく限られた日にしか売られていない上に朝一に行かないとすぐ売り切れてしまう人気商品だ。
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