泣くと真珠が止まらない薫 痛みなどはなかった。まるで手品のようだった。
久しぶりに姉さんの夢を見た、気がする。目覚めた時には覚えていなかったが、仄かに頭痛がした。眠りながら泣いたのだろうと思って目元を指先で拭うと、ぽろり、と何かが指先を伝った。
涙の跡が固まったのかと思ったが、違った。眼鏡がないせいでよく見えなかったが、手探りで枕もとを撫でると、そこには真珠があった。真珠? 何故こんなところに。パールの付いた私服など、僕は持っていないはずだ。何かの衣装で引っかかったものが転がったか。いや、そんな衣装も最近着た覚えは全くない。
寝起きの頭で考え込んでいると、消えたと思っていた眠気の残骸が立ち昇ってきた。欠伸をすると涙が出る。この後顔を洗うのだから構わないと思っていた矢先――ぽろり。何かが頬を落ち、胸元へ転がっていった。今度は眼鏡をかけて辺りを探す。布の皺と皺の間に、また一粒、真珠が輝いていた。
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