Vanishment時間は夜12時を回ろうとしていた頃、突然肩を叩かれる感覚で目を覚ました。グッとマットレスの沈み込む感覚に誰かが自分を覗き込んでいることが分かる。そしてほんのり香る酒の匂い。少し時間が経ったことで徐々に暗闇に目が慣れ始めたことと、真っ暗な部屋の中に入り込む月の光でその人物がハッキリとしてくる。
「……何…」
「ふふ、少し荷物を置きに」
こちらをじっと覗き込むのはハッサクで、やけに楽しそうな声で変わらず視線だけを向ける自分に話しかける。自分は彼に言葉を返す前に枕元のスマホの画面をつけ、その画面に視線を向けた。時間は十二時五十七分。それを確かめると、大袈裟にため息をついてまだこちらをのぞき込む体制から動く気配のないハッサクの方に向き直った。
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