生き残った者がみなもらう ①アレク・グランヴェルについて振り返る
ひとりの背が高く体躯の良い目つきの鋭い男が、中央と東の国の境の町をふらりと歩いていた。大きな荷物を背負い、きょろきょろと辺りを見回している仕草を見るに、どうやら旅人らしかった。
この町の中心には、齢数百年を超える大樹が、今もなお、豊かに緑の葉を茂らせている。旅人はその木を見止めて、懐かしいものを見るように目を細めた。
空は橙色の光が割合を占め、カラスが一羽、二羽、カアカアと飛び去って行く。
町の教会の鐘が六つ鳴った。東の国に近く、王都よりはやや雨量の多くじめっとした空気の町では、鐘の音はやや鈍くぼやりと広がるように男は感じた。
彼が腰を据えて過ごした南の国の乾燥した山の上では、音は澄んだまま、どこまでも突き抜けていったものだった。
32052