槍使いの弟子「文官家軍人が揃って何の用だ」
「槍の名手としてのお前の力を借りたい。鍛えて欲しい人物がいる」
「──誰だ」
「我々が仕えるツェアフェルト家の嫡男のヴェルナーさまだ。御年十二歳になる」
「はぁ 三本槍の一人と言われる、この俺に、貴族の坊ちゃんの相手をしろと ふざけんな」
「槍のスキルを持っている。実践的な槍の使い方を教えて欲しいと、ヒマさえあれば教えを講いに来られる、とても熱心で、頭の良い方だ。強くなると誰もが期待している。力を貸して欲しい」
上級貴族の若様だろうと、手加減する気は一切なかった。
泣いて許しを乞おうと、徹底的に叩きのめして、力の差を分からせてやる。
そう思っていた。
その小僧の目を見て、考えを改めた。
数手、手合わせしただけで、ただの小僧じゃないことに気付いた。
あいつらが俺に頭を下げてまで、鍛えてやって欲しいと請うた意味がようやく分かった。
あれは敵を見据えて戦ってる目だ。
生き抜くために、なにがなんでも強くなろうとしている、そういう目だ。
「次にここに来るのはいつだ」
「三日後」
「次も教えてやる。今日からお前は俺の弟子だ。俺の技の全てをお前に伝える」
「報酬は」
「いらん。三本槍と呼ばれた俺の弟子として、相応しい成果を出してみせろ。それが俺への報酬だ」
「……それは難しいな」
苦笑いと共に返ってきた答えは、子供らしさが欠片もなく、可愛気のなさが逆に気に入った。
数年後、その弟子は学生の身で大軍を率いて最前線に立ち、隣国を滅ぼした魔軍を翻弄し、魔将を引きずり出し、一騎打ちで魔将の目に槍を突き刺し、大怪我を負わして勝利した。
後に魔将殺しの異名を持つ名将の誕生を俺は見た。
「あれは俺の弟子だ!」
戦場で声を大にして、叫んだ。
「俺が育てた槍使いだ!」
興奮のあまり、体がブルブルと震える。
何体もの魔物を屠ってきた愛用の槍を握りしめた。
俺の目に狂いはなかった。
あの厳しい指導に必死に喰らいついてきた細っこい少年の姿を思い起こした。
俺の弟子は、世界に名を馳せる、歴史に名を残す槍使いになる。
そう確信した。
涙が次から次に溢れ出る。
逞しく成長した弟子の後ろ姿が涙で霞む。
「お前は俺の自慢の弟子だ」
空に向かって、声を張り上げた。