恋人の日 帝国領が拡大したことに伴って海向こうの文化が伝言ゲームのようにアバロンまで届くようになってきた。
今日の「恋人の日」というのもその一つらしい。具体的にどういった日なのかまではまだ詳しく知られていないにも関わらず、若い女官などがその言葉の響きだけではしゃいだ顔をしているのをジェラールは1日微笑ましく見ていた。
そんなあやふやながら平和な1日が終わろうとしているころ、読書に勤しむジェラールの自室にノック音が響く。
「どうぞ。」
ドアの方を見もせずにただ一言許可を出す。失礼します、という挨拶とともに姿を見せたのは見慣れた天色の瞳。
彼もまた慣れた様子で室内に歩みを進めるとジェラールに勧められるまま隣に腰を下ろす。
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