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    KiwiT83810

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    KiwiT83810

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    ジェラール様感謝祭への捧げ物です。

    が、ジェラール様出てないです。すみません。
    ジェラール様への感謝は目一杯に詰め込んだつもりです。
    現在の帝国があるのはジェラール様のおかげなんですよとうことで…

    世紀を超えて 交通の要衝ヴィクトール運河。
     ミラマーという街はその運河と共に栄え、南バレンヌと北ロンギットを繋いできた。
     立ち並ぶ民家と活気に満ちた露店街。近年には北ロンギットの新名所と名高い可動橋レオンブリッジが建設され、賑わいが絶えることがない。
     そんな街が最も静かであろう時間帯、日はまだ昇らないが空が白み始めてもう夜とも呼べないほどの頃の街外れに木を引き裂くような破壊音が響いた。
    「アキリーズ様!誰か起きてきてしまいますよ!」
    「すぐ終わるよ。お前こそうるさい。」
     民家の一角にある路地の終点。薄暗いだけのそこは街の人間にも存在が知られていないかもしれない。
     一見、隣あった民家と古い石造りの塀で形作られたような路地だが、よく見れば石塀はうっすらと苔むしていて隣あった民家とは明らかに年代も扱いも違うことがわかる。
     そしてその古びた石壁でも特に薄暗いそこに、これもまた古びて黒く変色した小さなドアが乱雑に板材を打ち付けられたままひっそりと佇んでいた。
     その打ちつけた板材をアキリーズと呼ばれた男が力任せに引き剥がし、傍で長身短髪の男が響く音に焦りを隠すことも彼を止めることも出来ずに困惑しているところだ。
    「せっかく立ち寄れたんだからな。この機会を逃す手はねえよ。」
     ドアを固定していた板材を剥がし終わると、次は長年動かされていなかったそれを無理矢理にでも開くべく格闘を始める。
    「やっぱり歪んでるな。ピーター、手伝え。」
     ピーターと呼ばれた長身の男は困惑しながらもわかりましたと返事をしてドアを強行突破すべく格闘に加わる。
    「それにしても勝手に入るというのは。許可を得てから立ち入るべきでは…」
     男2人分の力を受けて錆と歪みで固まってしまったドアが今にも壊れそうな摩擦音を出し始める。
    「許可取れって言うなら取るけどよ。誰が俺に許可を出すんだ?」
    「…愚問でした。申し訳ありません。」
     ピーターが言葉に詰まり、アキリーズに白旗を挙げたそのタイミングで一際大きく鈍い音を立ててドアが縦に裂けるように倒れ、同時にカビ臭い空気が2人を襲った。
    「…とにかく、開いたな。」
     鼻と口を覆い、顔をしかめながらも内部に入れることにアキリーズは手の下で口角を上げる。
    「じゃ、ちょっと見てくる。朝飯までには戻る。」
    「お待ちください!私も参ります。」
     近所の店でものぞいてくるような感覚で軽く言い放つアキリーズをピーターは呆れ顔で引き留めて同行を申し出た。
    「陛下お一人で行かせるわけがないでしょう。」
     帝国歴1435年、当代バレンヌ帝国皇帝アキリーズはこんなカビ臭いところについてくるとか物好きだなと珍しいものを見る目で皇帝護衛ホーリーオーダー、ピーターの運河要塞遺跡への同行を許した。

    「そもそも物好きは陛下の方でいらっしゃいます。もう400年近く封鎖されていたようなところでしょう。」
     侵入直後こそ出来る限り埃を立てないように慎重に歩を進めていたが、程なくして無駄な努力だと悟ったのか時折咳き込みながら2人は要塞内を進む。
    「最初はここまでほったらかす予定じゃなかったみたいだけどな。歴代全員忙しくて気がついたらミラマーに飲み込まれてこのとおりってところだ。」
     建物自体は石造りのため主要な壁や床などは比較的無事だが、内装は無残なものである。
    「ジェラール大帝が要塞を解放された時にはちょっとした城くらいに気取った場所だったんだけどな。」
    「伝承された記憶…ですか。」
    「ああ。ほら、見ろよ。」
     アキリーズが極弱くコントロールした天術の光で壁の一角を照らしてみせる。そこには所々かすれているが、白い塗料で描かれた矢印と、
    「猫…?ですか?」
    「シティシーフが初めて帝国に協力した時のもんだ。ジェラール様はこの矢印のおかげで敵に気づかれることなく運河要塞を進むことが出来たらしい。連中をジェラール様が口説き落として以来ずっと帝国に仕えてるってわけだな。」
     足元はおろか頭や肩にも埃を乗せながら髭や輪郭が剥がれ落ちた猫へ愉快そうな視線を送るアキリーズにピーターはイタズラ好きの子供に対する気持ちにも似た感情をいだく。
    「相変わらずの大帝贔屓ですね、陛下は。」
     先を急ぐアキリーズの背にそんな呟きを投げかけつつ、その後を追う。
    「アバロン育ちのやつならこんなもんだろ。モンスターの強襲から父君や兄君の仇撃ち、帝国の安定と拡大までこの人1人で物語やら伝記やらが何冊出てると思ってんだ。」
     加えて、今だに国中に肖像画が飾られている彼は神格化された存在と言っても過言ではないだろう。国中に肖像画とまではいかずともジェラール大帝の偉業を今に伝える書籍はピーターも何冊も読んできた。
    「それはカンバーランドでも同じようなことが言えますので理解しております。物語性を差し引いたとしてもあれほどの功績を残した君主はそうそういないでしょう。…だからこその疑問でもあるのですが、陛下は伝承された際に失望などはされなかったのですか?」
    「失望?」
     思ってもみなかった言葉だったのか、アキリーズは足を止めてピーターを振り返る。
    「ええ。ジェラール大帝とて1人の人間です。彼の記憶を継承することによっていわゆる人間らしい弱い部分も見えてしまったりはしなかったのですか?」
     ピーターが足を止めたアキリーズの横に並ぶタイミングで質問を言い終える。アキリーズは見上げる形でピーターに視線をあわせるとそれはないと答え、今度は横並びになって歩みを再開する。
    「まず歴代の皇帝の記憶が全ていつでも思い出せるわけじゃないからな。何かのきっかけで関連した記憶が頭に浮かぶようなもんだから先帝たちの考えや動向が全部わかるわけじゃない。」
     幸いなことにな、とアキリーズは小さく付け加える。
    「記憶が全部振り返れてジェラール大帝に失望するくらいならまだ可愛いもんだろ。何人もいる先帝たちの記憶が全部頭に入ってたりしたら俺の次の代あたりで狂っちまうんじゃねえか。」
    「不吉なことをおっしゃらないでください…」
     1人分の記憶や経験だけでも時には捌ききれなくなることもあるというのに、それが数人分、しかもそれが全て一国の君主だときたら常人の頭では抱えきれるはずがないというのは想像に難くない。
    「お前が言い出したんだろ。」
    「申し訳ありません。…では、何故先ほどジェラール大帝の頃はここは綺麗だったと知っておられたのですか?」
     要塞内に立ち入った時、彼は確かに「ちょっとした城くらいに気取った場所だった」と言ったはずだ。
    「前にミラマーを通過した時、たまたま記憶が見えたんだよ。ジェラール大帝のな。」
     そう話しながら角を曲がると陽の光が床に差している場所に差し掛かる。着いたな、とアキリーズは呟くとその光の方向へ足早に進む。
     進んだ先にあったのはバルコニー状の広々とした空間。視界には地平線から夜を切り裂くように光を撒き散らしながら昇る朝日に照らされたヴィクトール運河とレオンブリッジが一望できる。
    「大帝が運河要塞解放時に見た景色だ。」
     ピーターの脳裏に子供の頃に読んだ戦記の一説が蘇る。密偵の活躍によって夜の闇に紛れて要塞の攻略に挑んだジェラール大帝はその夜が明ける頃、見事に敵の首魁を討ち果たした。
    「…物語の演出か誇張かと思っておりましたが。」
    「作家に謝ってやれよ。ジェラール様がここでボクオーンの配下を討ち果たした時、こんなふうに日が昇ってヴィクトール運河を初めて一望できたらしい。…兄君の名を冠した運河をな。」
    「もしかして、過去エンリケ帝がレオンブリッジと名付けたのは…」
    「それが理由かどうかは知らん。でもまあ結果的に粋なはからいだよな。」
     厳密に言えばジェラールが見た光景と今の光景は違っている。当時はレオンブリッジもなかったし人々が笑い、活気あふれる街など影も形もなかった。それでも、
    「ジェラール様が今のミラマーを見れば喜んでくださるだろうよ。」
     アキリーズにはその確信があった。
    「そうですね。」
     ピーターも首を縦に振る。
    「ジェラール様には及ばねえが、皇帝になったからには命の一つや二つ帝国にくれてやるさ。」
    「陛下がそう仰るなら私はついて参ります。」
     息をするように続けるピーターにほんと物好きなやつ、とアキリーズは呆れ笑いを返す。
    「じゃ、見たかったものも見たし行くか。」
    「はい。」
     一つ伸びをするとアキリーズは運河に背を向けて来た道を戻り始める。
     そして要塞内に戻る直前で振り返り、肩越しにもう一度朝日に照らされた景色を眺める。
    「陛下?どうされました?」
     先を歩いていたピーターがそう声をかけるとアキリーズはすぐ行く、と言って再び前へ歩き始めた。

     アキリーズには振り返ったバルコニーに黄金に輝く優しい面影の青年が見えた気がした。

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    和花🌼

    DONE夏祭りワードパレットを使用したリクエスト
    7 原作
    ・帰り道
    ・歩調を落として
    ・特別
    ・あっという間
    ・忘れられない

    暑苦しいほど仲良しな二人を楽しんでいただけたら嬉しいです。
    夏祭り 7(原作) 夏祭りといえば浴衣を着て、友人や家族、それに恋人なんかと団扇で顔を仰ぎつつ、露店を横目で見ながら、そぞろ歩きするのが醍醐味というものだ。それに花火も加われば、もう言うことはない。
     だが、それは祭りに客として参加している場合は、である。
     出店の営業を終え、銀時が借りてきたライトバンを運転して依頼主のところに売り上げ金や余った品を届け、やっと三人揃って万事屋の玄関先に辿り着いた時には、神楽はもう半分寝ていたし、新八も玄関の上がり框の段差分も足を上げたくないといった様子で神楽の隣に突っ伏した。そんな二人に「せめて部屋に入んな」と声をかけた銀時の声にも疲れが滲む。暑いなか、ずっと外にいたのだ。それだけでも疲れるというのに、出店していた位置が良かったのか、今日は客が絶え間なく訪れ、目がまわるような忙しさだった。実際のところ、目が回るような感覚になったのは、暑さと疲労のせいだったのだが、そんな事を冷静に考えている暇もなかった。
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