斉藤タカ丸の不思議な夏休み茹だるように暑い8月。
世間では年々更新し続ける最高気温について、毎朝報道されている。斉藤タカ丸は、たった20日という短い夏休みの真っ只中だった。
「タカ丸、今日の最後のお客様は3時。カウンセリングだけ終わったら行ってきなさい」
父の声に、軽く頷いた。
汗を拭いながら、手にしていたカルテを端に寄せる。
地元の商店街の一角にある小さな美容室。
「美容室 斉藤」は、もう何十年もこの街で営業している。
凄腕の父を指名で来る常連客も多いが、最近は自分のコミュニケーション能力の高さを評価して訪れる若い女性客もちらほら増えてきた。
「髪、疲れてる感じしますね。最近、紫外線とか大丈夫でした?」
「えっ…あっ、あんまり気にしてなかった…!」
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