────あれを拾おうと思ったのは、その瞳が爆ぜる導火線のように燦然としていたからだ。
這い蹲った床で反吐をぶち撒けながら息を漏らし、爪の割れるほど床を握り込んで耐える。破れた皮膚から流れ落ちる血液はガーゼを染み越え、全身に巻き付く包帯を汚した。
響く足音に顔を上げる。殺してやると吼えて暴れたが、鎖にガチャンッと引き留められて吐瀉物で汚れた床へ惨めったらしく転がった。
「今回は研究費の増額をご決定下さり大変感謝申し上げます」
「おや…」
女の研究員と共に通路を進んでいた如何にも紳士然とした男…JPが足を止め、鉄柵の隙間からその奥へと眼を細める。特別な実験体の隔離室だというそこには只のちっぽけな子供が入れられていた。
「彼だけ何故このような拘束を?」
「実験体としては非常に優秀なのですが、何せ凶暴で…。この前は職員の指を噛み千切りましたし、他の実験体を殺してしまうので隔離したのです」
その子供には手枷と足枷が嵌められ、長く伸びた鎖でまるで飼い犬のように繋がれている。ギラギラと光る黄色い瞳がJPを捉えた。吐瀉物で塗れた口から僅かに唸り声を漏らしている。他の実験体達とは異なる剥き出しの激情。生への執着というよりも、それは怒りの破壊衝動というべきだった。
JPはその無様な姿を一頻り眺めると薄い笑みを浮かべた。