エスティニアンは兼ねて相棒と信頼を寄せる光の戦士から一通の連絡を貰った。イシュガルドに部屋を買ったから、せっかくだし呑もうと。方方旅をする彼の話は随分と興味深く、また酒を飲めるとなればと、エスティニアンは久方ぶりにイシュガルドへ帰国した。後々聞けばアイメリクも一緒らしく軽く舌打ちしかけたが、せっかく来たんだしと押し切られて今に至る。
先に盛り上がってたら適当に入ってきて、と不用心も甚だしい連絡をもらいつつ、新居であるイングルサイドへ。アイメリクと鉢合わせするのが何となく嫌で、気配を消し、約束の時間より少し遅れてエスティニアンは扉の前に立った。
扉越しにくぐもった笑い声の端々が聴こえ、しまったと思いながらノックをする。盛り上がっているのか返事はない。住所を改めて確認し、扉を薄く開けると声がはっきりと届いた。
「そんな訳はない、エスティニアンが恋人だなんて。エスティニアンが私を好いている訳ないだろう!」
エスティニアンは大きく開こうとしたドアノブから手を離した。話に夢中で気づかれていない。薄く開けた扉から漏れる声が遠ざかる。数歩下がって、やっと口から詰まった息を吐き出すことができた。
部屋の中には相棒である光の戦士と、親友のアイメリクだけがいるようだ。エスティニアンを待つ間おしゃべりが好きな彼らは盛り上がっていたのだろう。そして柔らかながら芯のあるこの声は紛れもなくアイメリクのもの。雑談など、まして恋愛話であれば普段なら忌避するものではあるが。
――しかし今、アイメリクは何と言った?
相棒曰くアイメリクとの距離は友人ながら相当近いものらしい。大方相棒がアイメリクに揶揄を込め恋愛話でも振ったのだろう。
『私を好いている訳ないだろう』
確かに自分たちの関係は友人だ。恋人でも何でもない。ただあの時、アイメリクはまるでエスティニアンからアイメリクへは何の感情を向けていないようだと言い切ったようだった。
自分の日頃の態度を顧みればそう見えてもおかしくないと内心舌打ちをする。しかしそれと同時に、自分が彼をどう思おうと伝わっていなかったのかと、気持ちは胸を刺すような、切なさとも言える感情が心臓を貫いた。教皇庁から助け出したときも、ラザハンから土産を送ったときも、エスティニアンからの気持ちは届いていなかったのだろうか。
「悪い。遅くなったな」
部屋に入る前のたった一呼吸だけで平時の自分を装えているだろうか。そのまま引き返すことが正解だっただろうか。
「ではまたこれで」
エスティニアンが入ると同時に、アイメリクから声が上がった。丁度席を立つタイミングだったらしい。光の戦士が止めに入るが、少し仕事を溜めていてと、結局エスティニアンと玄関ですれ違う形となった。
「エスティニアン、酒は程々に。迷惑をかけるなよ」
「わかっている」
ここで、お前こそ仕事を詰めすぎるな、無理をするなと一言伝えられれば良かったのだろうか。 不慣れな言葉を伝えようと考えを巡らせている最中に「お邪魔しました」と扉が閉まった。
何かあった、と表情に書きつつも言葉で聞かないところが相棒らしい。不自然かもしれないが、エスティニアンは「あいつ、何か俺のこと言いふらさなかったか?」と不機嫌そうな顔で聞けば、何から話せばいい?と悪どい顔をした相棒が酒を差し出した。喉を焼くような強い酒だった。