浄土実弥の為の行灯を点け、悲鳴嶼は大きな手で行燈の覆いをかけた。いつもながら、まるで見えているかのように燈の世話をする。実弥は久々の岩屋敷の長火鉢の側で、するめを焙って酒を飲みながら、悲鳴嶼がゆっくりとした口調でかつての鬼殺の話をし始めた。
奥深い山中で修行している修験者が、真夜中に光り輝く神仏が来迎するのに出逢い、導きを得て浄土に向かい、それきり現世に戻らない。そういう噂のある山の話を聞いて、悲鳴嶼は早速向かった。
「それ、単なる噂話じゃねェんですかァ?」
「人を惑わすのにも昔から色々な手口がある。これはそのうちの一つではないかと思ったのだ。大正の世の中に神仏でもあるまい」
「どういう所が怪しいんですかァ?」
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