『星降る雨空』
「あ、雨…」
早朝からの仕事を終え、まだ日も高い時間に帰路へつこうとしたダイダラボッチは、空を見上げ、肩を落とした。
「午後は折りたたみ傘があると安心ですね」
朝の一コマを思い出す。
それを聞いたところで家を出た後なのだから、自分にとってはあまり意味がない。
彼の予報通り、小雨だ。たいしたことはない。濡れて帰ろう。
踏み出した足は、自分の名前を呼ぶ声に引き留められた。
「ダイダラボッチさん!」
有能な気象予報士が駆け寄ってくる。
「傘、ないのでしょう。入りませんか?」
オモイカネの手にあるのは当然、折りたたみ傘。
「あ、いや、オレは大丈夫…」
大人の男二人で使うには折りたたみ傘は小さすぎる。
そもそも、例え大きい傘でも大人の男二人で使うのはいかがなものか。
「私だけ傘を使うのも後味が悪いので、入っていただけると有難いのですが」
「いやでも、アンタが濡れちゃ意味ねぇし…」
「私だけ悪者にしないでくださいよ」
相手の言い分を聞く気がないオモイカネは折りたたみ傘を開く。
ほら、と傘を差し出す。
「ダイダラボッチさんが持っていただけますか?私では高さが足りないので」
ダイダラボッチは諦めて傘を受け取った。
「わ…」
傘を掲げたダイダラボッチは、言葉を漏らす。
何の変哲もない黒い折りたたみ傘。
その内側はホログラムのような色合いで。
「ふふ、綺麗でしょう」
傘の内側は、角度によって、青空のような、宇宙のような、夢の中の世界のような。様々な色を見せた。
「アンタ、すげえな」
「すごいのは、私ではなく、この傘でしょう」
「んー、そうだな。でも。アンタすげえよ」
「…はぁ。よく分かりませんが、その言葉受け取っておきますね」
二人は共に、歩みだした。