名鹿助の嫌いなもの同期の男は、随分と無愛想だった。
しかし、最初のイメージは『社交性はある人』だった。
今思えば、あんなに苦手な事を頑張って不器用を極めている奴だなぁと、いっそ哀れに思う。
今はすっかり口の悪い同期に落ち着いていて、まぁ、個人的には、その方が好感が持てた。
相変わらず人との距離感ってやつがダメなようで、新入社員には怖がられてばかりなようだが、
俺が肩を組んで、乱雑に話を回してやれば、それなりにちゃんと話もできるし、大人なもんで仕事に影響することはない。
それが、仕事の仲間である俺が知る。
“大崎直紀”と言う男だった。
色彩感覚はいいが、センスは無難。
文章能力は高いが、交渉技術は稚拙。
お人好しで、不器用で、あと、社畜。
なまじ体力があるせいで無理ができてしまい、頭がおかしくなるまで徹夜する。
「した、したた、したたたかした」
「し、た、た、か!おい!もう寝ろ!」
「し、、?したか、、さた」
「寝ろ!!!」
数年一緒に働いているが、どうにもそういう部分は固定されたヤツの基盤の部分らしく。
俺にできる事と言えば、仕事のしすぎでおかしくなった時に、後輩に世話をさせ仕事を請け負ってやるくらい。
本人もそれ以上は求めないし、なんなら拒否する。
「ったく、、、。」
隣のデスクから、数枚書類を掻っ攫い目を通せば、確かに「もうちょっとで終わるから」と無理をしたくなる気持ちはわかる。
わかるあたり、自分も社畜って奴なのだろうと思うが、それには目を瞑り、
ヤツの椅子に移動して、ヤツのPCを弄る。
あぁ、やはり、手を焼いているのはこの作家か。と、作家の名前を確認して項垂れる。
桜川祈。
彼女はうちの編集部にとっては大事な作家の一人ではあるが、とても難解な作家の一人でもあった。
大崎自身が持ち込みの作品を見て作家として引き込み、それから仕事は丁寧で割と柔軟にこなしており、締切も守れる優秀さ。
しかし、担当の休日までも振り回し無茶振りをするその性格と、何かと棘のある言い方のせいで、いつも大崎が胃痛を抱えている。
が、同期の俺からすると、どうにも二人の関係はそれだけではないような気がする。
色恋沙汰の話ではなく、その二人が同じような生い立ちなのではないか。というのが推測だ。
「悪夢」だろうか、繰り返し怪物に襲われながらも夢から脱出を目指す話が頭をよぎる。
桜川先生の最近の作品だ。
二人もまた、昔のことを引きずっては、繰り返しているように見えて、俺はどうにも、そう言うのが嫌いだった。
「名鹿先輩、大崎先輩寝ましたよ。」
「おお、ありがとうな。お前も休めよ?」
大きく伸びをして、大崎のPCをもう一度見る。
キーボードを叩いてデータを弄り修正し、視線を滑らす。
丁寧な仕事だと思う。大崎の仕事は。
あいつに仕事をこなすスペックがないとは思わない。実際やつも締め切りには余裕を持っている。
なのになぜ、繰り返し無理をして徹夜してまで仕事をするのか。
その重要な悪夢を、俺は知らない。
「頼れよ。クソ野郎。」
俺は、大崎のそういうところが大嫌いだ。