捥がれた羽籠の中の鳥。
それはカナリアの事だった。
愛玩鳥として古くから愛でられ、繁殖に必要な巣引きは修道院の僧のみに許されていた時期もある。
容姿が、鳴き声が、と。色々な形で人の思う形を辿ってきて今に至るが、今に話すカナリアはそのカナリアのことではない。
美しく反射するステンドグラスの日を浴びて、神々しく建つ神々の像へと祈りを捧げる1人の男。
澪川カナリア。
それがこの教会の神父の名前だった。
籠の中の鳥。とは、まさにカナリアの事である。
彼は両親の厚い信仰心の元で育ち、神父としての職以外など考えず、ただ盲信的に神に尽くした。
それは美しき心の源となり、彼自身の支えとなった。
彼にとってはそれだけで、充分だった。
「神の言葉に耳を傾け、己を律し、清くある事。
それが自分にある使命なのです。」
聖書を片手に、ふわりと彼の長い白髪が揺れる。
閉じたままの瞳は、何処かを見据えているようで、しかし、何も視ていないようでもあった。
彼は籠の中にいた。
それ以上もそれ以下もなく、それが全てだ。
「何か願いはありますか?
何か懺悔はありますか?」
それが神父の役目であるからと、彼は願いも懺悔も聞き届ける。
にこりと笑った表情を一つも崩さずに、飾りのようなモノクルの越しに話し続ける。
「祈りましょう。
神は見てくださっていますよ。」
手を伸ばす。
その手を取るならば、彼は人を正しく導くだろう。
籠の中の鳥は、いつか放たれる時を待つ。
カナリアは出て行くつもりなどないけれど、いつか、律した心と、強い感情の揺れを計りに掛けて、傾いた瞬間が岐路となる。
カナリアは童話で語られるような、か弱い鳥ではない。
カナリアは、果たしてどうだろうか。