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    鵺卷恢

    @10kai_13

    Twitterにあげない落書きもある。🔞など濃厚な絡みはTwitterじゃなくてこっちにあげてます。

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    鵺卷恢

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    一周年の衣装最高だけど衣都さんの衣装も見たいよォ!
    っていうノリで書いた灯衣都です。付き合ってないです。

    ##ブレマイ

    独占衝動波に揺られもしないほど安定した船体の中、照明の加減か、それとも場の熱気か──この豪華客船の空間は、やけに煌びやかに見えた。

    「……」

    視線の先に立つのは弥代。
    祠堂たちが用意した、Aporia本部共通の黒と赤のドレス。それを纏った彼女は、まるでこの世の者ではないような雰囲気を纏っていた。
    いつもは隠れている耳。
    そこから伸びる滑らかな首筋。
    ドレスの切れ込みから覗く太腿。
    そして、足元の高いヒール。

    無防備だと──最初に思った。
    だが、同時にその姿に目が離せなくなった。
    同僚であり、自分とは立場の違う護るべき一般人であるはずの彼女に、触れたいと思ったのは、たぶん初めてじゃない。
    ただ、それを自覚したのは今だった。

    (何かあったら、手を貸す)

    そんな名目で、視線を離さずにいた。
    他のメンバーが席を外した一瞬の隙、弥代は一人きりになっていた。
    状況を読まず、酔った男が近づく。

    「……」

    男は酒を片手に弥代へと言葉を投げていた。どうやら一緒に酒を飲まないかと誘っているようだったが、彼女は断っている。それでも奴は引かない。
    距離を詰め、手を伸ばし彼女の露出した肩に触れようとした。

    その瞬間、思考は途切れた。

    「やめろ」

    声は冷たく、鋭く響いた。
    男が弥代に触れる寸前、俺はその手首を掴んでいた。力加減はしていない。軋むような音がしたのは、関節か、それとも俺の内側か。

    「彼女に触れるな。次はその手、使えなくなる」
    「な、なんだお前……ッ」

    男は怯んだが、離そうとはしなかった。
    無言で睨みつけると、奴の顔が青くなり、ようやく腕を引いた。
    男が去っても、苛立ちは消えない。
    誰にも触れさせたくない、誰の目にも晒したくない。
    それは、任務のためでも、仲間としてでもない。
    ただの独占欲だった。

    「……平気か」
    「……恩田さん。すみません」

    少し遅れて声をかける。
    彼女はうなずいた。動揺はない。だが──

    「お前のその格好は、危険を引き寄せすぎる」

    気づけば、俺の手は彼女の耳元に伸びていた。
    髪の隙間から覗く柔らかな輪郭に、そっと触れる。
    手袋越しに、当然ながら彼女の体温は感じ取れない。
    ただ、そこに確かに彼女がいて、俺が触れているという現実だけがある。

    ……それが、余計に苛立たしかった。
    この布一枚を隔ててすら、俺は弥代に触れることを許されていないような気がした。

    触れているのに、何も届かない。
    護っているのに、満たされない。
    その距離が、ひどく堪える。

    「ヒールの高さと、露出の多さ、状況を考慮すべきだったな。……俺の見立てが甘かった」

    低く呟く。
    自分に向けた言葉だ。
    彼女の装いに、あの男に、そして何より、こうして触れたいと思った己自身に。

    「他のメンバーが戻るまで、俺のそばを離れるな」

    それだけ言って、手を離す。
    何も伝えられなかった手袋が、妙に冷たく感じた。






    波音に包まれたデッキの縁。
    照明は遠く、ふたりの影を静かに引き伸ばしていた。

    「……ここなら、誰も来ない」
    「わざわざすみません。ありがとうございます」

    それだけだ。何も問わない。
    感情の起伏がなさすぎて、時折こちらの言葉が届いているのかさえ分からなくなる。

    「お前、さっきの状況で一切顔を歪めなかったな。酒を勧められても、肌を触れられそうになっても、微動だにしなかった。……普通の人間なら、嫌悪の色ぐらい浮かべる」
    「……すみません、表情に出ないものでして」

    そう言う彼女の頬を見つめる。
    そこには、いつも通りの無表情。
    だが、それが──“壊れている”と感じさせる。

    「……どこか壊れてるな。お前は」

    呟くと、弥代はゆっくりとこちらを見た。
    否定はしない。それが何よりの証拠だった。

    Aporiaで出会って一年。
    オーナー代理という肩書きでいながら、何かあればすべての責任を押しつけられ、切り捨てられる立場。
    彼女が壊れているのは、そう生きるために必要な防衛だ。

    ──善良だ。だが、どこか人間味が削ぎ落とされている気がする彼女。

    それが、逆にこちらの理性を揺らす。

    「俺は……お前に触れたくなった」
    「え、と。触れたいとは、先程のように顔にですか?」
    「……顔というか、ただ、弥代に」
    「……それは、何故」
    「ただの衝動だ。……だが、俺の手は、誰かを癒すものじゃない」

    そう言いながら、手袋を外した。
    革が軋む音がした。

    「それでも……今だけは、俺のわがままを許せ」

    その言葉とともに、手を伸ばす。
    彼女の頬に触れると、ようやく、指先に体温が伝わってきた。
    無反応のようでいて、弥代の睫毛が僅かに揺れた。

    「温かいな。……手袋越しだったから、知らなかった」

    その温度が、思っていたよりも優しかった。
    だが、それに甘えることはできない。
    彼女は“誰かに寄りかかる”という概念を持っていない。

    「この一年、少しはお前のことを知れたと思う。普通以上に空気を読むくせに、自分の価値には無頓着だ」
    「……自分の価値、なんて……」

    言葉が止まる。
    自分でも、今どこに向かっているのか分からない。

    「……壊れてる。だけど、それが俺には、どうしようもなく惹かれる理由になってる」

    あの日から。出会った時から。
    人間であって人間らしくない女。
    善良でいて、冷たいまま沈黙を選ぶ女。

    「だから今だけは、命令でも、任務でもなく──お前を、俺のものにしたいと思った」

    衝動だった。
    けれど、それは抑えきれない本音だった。

    彼女が何を思っているかは分からない。
    けれど、俺の手が頬に触れていて、彼女がそれを拒まなかった事実だけがすべてだった。

    指先が触れている場所は、確かに温かい。
    だが、それ以上に彼女の無反応が、逆に深く刺さる。
    拒まれていない。けれど、受け入れられてもいない。
    まるで、誰にも心を許す術を知らずに生きてきた人間のようだった。

    俺は、手を頬から耳の裏へと滑らせる。
    ドレスで露出した小さな耳。
    普段、髪に隠されて決して見えない場所。
    その形の繊細さに、息を潜める。

    「……耳が出てる。珍しいな」
    「……はい。祠堂さんに仕上げてもらいました」
    「……そうか」

    短く返しながら、指先で軽く触れる。
    弥代の身体が、僅かに揺れた。
    驚いたのか、それとも、何か感じたのか。
    それを俺に読み取らせるような素振りは一切ない。

    だが、この空気。この距離。
    それだけで、胸の奥が熱を帯びていくのを感じた。

    「……嫌なら、今すぐ止める」

    そう告げたのは、最後の理性だった。
    だが彼女は、ただこちらを見つめ返しただけだった。
    無表情の中に、微かな──本当に微かな、迷いにも似た瞬き。

    その沈黙が、「否」と言わないことの証だと捉えてしまった俺は──
    身体を前へと傾け、彼女の唇へと、ゆっくりと、重ねた。

    触れるだけの口づけではない。
    手袋を外した片手が、彼女の首の後ろに回り、そっと支える。

    舌が触れる。
    彼女の驚きが、呼吸の中に一瞬混ざる。
    それでも逃げない。抗わず、受け入れた。

    誰にも見られてはいけない、誰にも知られてはいけない。
    仕事の最中であるにも関わらず、デッキの影で交わされたそれは、感情でも、欲でも、境界を越える寸前の、危うい熱だった。

    長くは続けなかった。
    それは理性が、ぎりぎりのところで引き戻した。

    唇を離すと、弥代は少しだけ瞬きをして、呼吸を整えていた。
    その表情は、やはり無表情のままだった。
    だが、わずかに震える睫毛と、耳の赤みが、確かに余韻を物語っていた。

    「……今のは、すまない。仕事中だというのに、理性を捨てかけた」
    「……いえ、問題ありません。……たぶん、ですけど」

    たぶん。
    その言葉に含まれる曖昧な肯定が、今は何よりも重く響いた。

    「俺は、きっと──もう引き返せないところまで来てる」

    誰にも知られずに交わしたそれが、
    確かに“何か”の始まりだった。
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