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    kanzaki9120

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    白黒兄上の話 後日談3
    今回はレーティングありません。

    白黒兄上の話 後日談3とうとう弟は実家で行われるパーティに呼ばれた。と言っても親戚ばかりで規模は小さめ。弟は正式なお披露目も済んでないからその内大きいパーティにも出なきゃならない。今回は予行練習といったところ。パーティの予定が入ってからはダンスの授業が凄く多くなって弟はうんざりしていた。昔はダンスは嫌いじゃなかったはずだけど、今はあんまり好きじゃないみたい。

    パートナーは今の代官の姪っ子で、弟のダンスの授業のお相手だ。彼女はダンスが上手で弟が足を踏みそうになっても華麗に避ける。まあ散々練習させられてもう踏んだりはしないだろうけど最初は結構危なかった。

    代官の姪っ子は勉強はあんまり得意じゃないらしいけど、人の顔と名前を覚えるのは凄く得意らしいから、弟に教えてあげる役割もあるみたい。私が弟に見えて声が聞こえたらいくらでもこっそり教えてあげられるのに残念。

    ヴェルナーのお相手のリリーは勿論の事、リリーの家族も参加する。弟の予行練習でもあるけど、リリーの家族の予行練習でもあるらしい。なにせリリーの兄のマゼル君は貴族になった。騎士爵じゃないから家族も必然的に貴族になるのだ。平民から突然貴族とか大変だろうな。しかもマゼル君が勇者様だから放っておいてもらえないことが確定している。

    リリーはダンスは問題なさそうだけど、親戚の女性が絡みに行ったら少しおどおどしていて、お披露目はまだ少し不安が残る。親戚の女性もわざわざ面倒くさいタイプのフリで絡んだから余計かもしれないけど、英雄の妻、勇者の妹って肩書きだからきっと嫌ってくらいに絡まれると思うから、ここで沢山失敗すれば良いと思う。

    弟はとりあえずダンスも親戚とのやり取りもなんとかなっている。貼り付けた笑顔が引き攣り始めてはいるけれど初見ではわからない程度。弟は一通り挨拶を終えるとそそくさとバルコニーに逃げた。

    「お疲れ様でした。」

    「はぁ…帰りたい。」

    「ここがツェアフェルトのお屋敷ですよ。」

    「わかってる。…ちょっと休んだら戻るよ。」

    「そうですか。では私は下におりますわ。」

    「ありがとう。」

    代官の姪っ子がバルコニーを離れホールへと降りていく。

    弟が暫く涼んだ後ホールに戻るとリリーが他の男性の親族にダンスに誘われていた。ヴェルナーは父上と話しているようだ。なるほどその辺も練習させられるんだね。リリーもそうなるのは聞いていたのか、親族の手を取りダンスへと入っていく。

    貴族というのはかなりパーティ好きだ。うちは父上が典礼大臣の宮廷伯だったから常に王都にいたけれど、大抵の貴族は普段は領地にいて社交の季節だけ王都の館にやって来る。リリーがうちに来た頃は魔王復活だなんだで慌ただしかっただろうから、社交の季節がどうとかあまり関係なかったかもしれないけれどこれからは違う。

    ただでさえ注目の的のヴェルナーは沢山パーティのお誘いがくるだろう。まあ、陞爵して侯爵になってしまえば下位の貴族からのパーティは大抵断れる。断るかどうかは社交の必要があるかどうかで決まるから、面倒だから全部断るってわけでもないんだけどね。

    リリーは茶会も開かなきゃならないだろうし大変だろうな。

    対して弟は代官なので基本的には領地にいられるし、ダンスも原則は男性から誘うものだ。上位貴族の女性から気まぐれで誘われる可能性はあるけど、侯爵になったらそうそうあるものじゃないし、パーティもほぼ出ないだろう弟にはあまり関係が

    「私と踊って下さる?」

    えっ!第二王女殿下⁉︎なんでいるの⁉︎弟がバルコニーに逃げている間に来たようだ。

    「喜んで。」

    踏むなよ!第二王女殿下の足だけは絶対踏むなよ!

    「私は今日、マゼルのパートナーなのです。」

    「そうでしたか。確かにマゼル君は遅れているとは伺っていましたが、まさか殿下がパートナーでしたか。挨拶もせずに申し訳ありませんでした。」

    「構いませんよ。休憩中だったのでしょう?バルコニーから戻って来たのは見ていましたよ。…うふふ。近々婚約する予定なのです。」

    えっ⁉︎ハルティング家凄いな!両親がむしろ可哀想なくらいだ。娘は侯爵家の英雄と呼ばれる男に嫁入りで、息子は勇者で聖女と結婚?ただの村人からそれはある意味ストレスが凄そう。

    弟はなんとかダンスを乗り切った。第二王女殿下はそのままするすると人を避け、今度はヴェルナーを誘ってヴェルナーに驚かれている。リリーと弟の予行練習の場であるからか、第二王女殿下はだいぶフランクに振る舞っていらっしゃる。

    「ダンス練習しておいて良かった…。」

    そうだね。私もそう思うよ。



    「はじめまして。マゼル・ハルティングです。」

    わあ。今度は勇者が来た。弟はあからさまに嫌そうな顔。こら、パーティ中だぞ。

    マゼル君は弟の嫌そうな顔など何にも気にせずに弟をソファーに誘った。マゼル君は結構話好きなのか、ヴェルナーの話をしてくれた。私もヴェルナーのことは殆ど知らないから話はとても楽しい。学園が楽しそうで良かったなぁと思う。

    学園の話から魔王討伐の旅の話へと移ると、弟もなんだかんだ興味深々だった。弟がいた国の話になるとあの魔物は美味しいだとか、美味しくないだとかで盛り上がっていた。貴族らしい話をしなよ!

    傭兵隊にいたからか、マゼル君の話す冒険譚を聞く弟は楽しそうで、ここ最近では一番笑ってる気がする。

    「あらマゼル。楽しそうですわね。」

    第二王女殿下がヴェルナーと共にやってきて、弟はスッと貼り付けた笑顔になった。

    「うん!レインボークレイフィッシュが意外と美味しいよねって話をしてたんだ。」

    「そうですわね。少々雑味はありますけれど、見た目に反して美味しいのですよね。」

    「虹色ザリガニ…。」

    ヴェルナーは微妙な顔で何かをつぶやいたけれど、私にはよく聞き取れなかった。

    マゼル君達の話を聞くに、レインボークレイフィッシュは環境が最悪な沼地に生息していて、レインボーとは名ばかりの頑固なヘドロに包まれているらしい。ヘドロや藻を落として初めて甲殻を拝めるそうだが、何やらギラギラした気持ちの悪い七色で、サイズは手のひらサイズだから可食部は少ないみたい。

    捕獲は簡単だが小さい個体が多いから処理が面倒で、飛び抜けて美味しいかといえばそうでもないらしい。とはいえ海老の仲間だから海老と同じような味とのこと。王都にいたら好んで食べないけど、簡単に捕獲出来るから沼地の近くで野営するなら食べても良い。くらいの味みたい。

    「傭兵隊じゃあ、生息地あたりに行ったらバケツ2杯分くらい持ち帰ってましたよ。」

    「まあ、処理が大変ですわね。」

    「それでも傭兵隊の人数では全然足りないので、他にも…」

    またゲテモノ食トークが始まってしまった…。

    ヴェルナーは私と同じく想像しか出来ないみたいで微妙な顔だ。わかるよ。その気持ち。

    第二王女殿下、勇者、弟でひとしきり盛り上がった後、ソファーでの歓談は解散。盛り上がるなら別の話題が良かったよ。

    「兄上。先日いただいたアレですが、美味しい淹れ方を見つけましたよ。」

    「眠気覚ましに美味しいとかある?」

    「美味しい方が良いじゃないですか。後で一緒にいかがですか?」

    ヴェルナーお前…あのインクを美味しくしてなんだっていうんだ。ティルラが泣かないか?

    「まあ試しに飲むくらいは。」

    「ミルクや砂糖を入れると女性や子供でも飲めるくらいマイルドになります。」

    「女性や子供に徹夜させるの?」

    「いや、眠気覚ましじゃなくて嗜好品的な感じで…。」

    何故嗜好品にしようとしているんだ。紅茶でいいじゃないか。どうしてあのインクにそこまで執着するんだ。ヴェルナーがわからない…。


    パーティ終了後ヴェルナーは宣言通り弟にあのインクみたいなやつを出すことになった。弟がやっていたより細かくなった種を、布をかけた円錐形の容器に入れて、ガラスのポットの上に乗せた。

    「何それ。」

    「布で濾しながら抽出するんです。こうやってゆっくりお湯を回し入れて全体にかかったら一旦手を止め少し蒸らします。その後またゆっくり注いで…落ち切ったら完成です。」

    「ふぅん。」

    ああ、これ面倒だなとか思ってるな?ヴェルナーにとっては嗜好品みたいだけど、弟にとっては眠気覚ましだ。眠い時にこんな手間をかけるのを面倒だなってたぶん思っている。

    「どうぞ。」

    「ありがとう。」

    見た目は結局インクなのだけど何か違うんだろうか?匂いもわからないから違いがわからない。ただ弟が淹れる時はティーポットに粉砕した種を入れてお湯を注いで放置。少ししたら茶漉しで漉しながらカップに入れていた。

    「だいぶスッキリしたね。」

    「そうでしょう!このやり方をすると雑味がなくてスッキリするんですよ!」

    また興奮してる。ねぇ。本当にこれ飲んで大丈夫なものなの?

    「確かに美味しくなったね。」

    「そうでしょう!そうでしょう!」

    ヴェルナーはニコニコしながらインクみたいなやつを飲む。

    「名前が無いと不便なんで、コーヒーという名前にしました。」

    「何がどうなってコーヒー?」

    「そんな感じなので。」

    「よくわからないけど好きにしたら良いよ。俺は別に名前なんてどうでも良いし。」

    まあそうだろうね。

    「この果実をつける魔物飼って増やしたり出来ないですかね?」

    「魔物を飼って増やす?」

    「絶対流行ると思うんですよ!コーヒーを安定供給するにはどうしてもその魔物が必要です!」

    そこまでする?本当にこのインクみたいなやつ飲んで大丈夫?なんか中毒性あるんじゃない?

    「流行るか?」

    「絶対流行ります!先にも言いましたが、砂糖やミルクを入れれば女性や子供も飲めますし、コーヒーを入れた焼き菓子なんかも作れるでしょう。この苦味は男性受けしますし、父上にも王太子殿下にも好評でした。」

    ヴェルナー‼︎お前王太子殿下にこれ飲ませたの⁉︎嘘でしょ⁉︎

    「お前…。」

    ほら弟も絶句だよ!

    「紅茶とはまた違った香りの良さに、甘い物と相性のいいこの苦味。男性を中心に必ず流行ります!つきましては領地でこの魔物を増やしませんか⁉︎」

    凄いこと言い出した!

    「まあ、副隊長にいえば生きたまま連れてきてはくれるだろうけど、育て方とか知らないよ。」

    お前もなんで受け入れようとしてるの⁉︎

    「生態について調べてみました。」

    そこからはヴェルナーが調べた魔物の生態や、想定している飼育方法についてが長々と語られた。うそでしょ?本当にやるの?領地で魔物育てるの?このインクみたいなやつを作る為に?

    「最終的に利益が見込めるなら俺は構わないよ。」

    「じゃあとりあえず小規模で始めてみましょう。焙煎方法や挽き方もこちらで研究しておきますので!」

    「お前忙しいんじゃないの?」

    「忙しくはありますが、これはいいんです!」

    「そう…。ならいいけど。」

    なんてことだ。ティルラの美味しい紅茶がありながら、ヴェルナーはなんでこんなインクみたいな飲み物にハマったんだ。領地で飲んだ人達の反応を見る限り、確かに男性陣は比較的受け入れやすい傾向にはあったけど、美味しいって大絶賛していた人はいないはずだ。ヴェルナーだけだそんなの。弟だって美味しいから飲んでたわけじゃないのに流行る?流行るの?これが⁉︎
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