Memory6「記憶は戻っているのだな。」
「あ?テメェいつから起きてた?」
「?ついさっきだが…。」
「ならなんで記憶があること知ってんだ。」
「テメェと言っただろう。」
あー…確かに記憶がない時は兄さんって呼んでたか。判断基準そこかよ。
「…悪かったよ。」
「なにがだ?」
「テメェの言いつけ守らねぇで人質に取られたことだよ。」
こいつがしたのは余計な怪我だ。たぶん討伐任務だって無傷で終えたんだろうに、俺が人質になんてなったから腕まで折られている。
「いや、そもそもあれらの目的は私だろう。お前は一方的な被害者だ。謝罪の必要はない。」
「そーかよ。」
「お前があれらを招き入れたのは意外だが、お前はそう迂闊なタイプではない。それ相応の過程はあるのだろう。」
「…んな大層な理由はねぇ。」
魔法警察だと思ったのは確かだが、後日保護者経由で連絡すると言われていた。そこに気が付かなかった落ち度がある。
「そうか。」
「なんなんだよ!」
「何を怒っている?」
「何をじゃねぇだろ!テメェは俺が迂闊にあいつらを招き入れたから入院までしてんだろうが!文句一つねぇのかよ!」
「ふむ…。例えばだが、マギアルプスの…マイロ…だったか?アレがお前と同じ状況だったとして、事が終わった後にお前のせいで怪我をしたと責めるのか?」
なんでマイロだ?いや許さねぇよ!知らねぇ奴が来ても開けんなって言ったよな!って言うだろ!
「一発絞めるに決まってんだろ!」
「…難しいな。シュエンにすべきだったか?」
難しくはねぇだろ!
「お前は記憶がなかった。生活は出来ても常識が欠落していた。」
悪かったな!常識がなくって!
「生活における知識はあっても私がどの程度恨みをかっているのか、騙し討ちの手口がどういったものかは知り得なかったはずだ。…言い方を変えよう。お前はそういった子供が人質に取られ自分が怪我をした時に子供を責めるのか?」
あー…。なるほど。確かにそうか…。世間のあれこれを知らないガキのミスにいちいち腹を立てるのかってことか…。
「俺はガキじゃない…。」
「肉体的にはな。危機意識は聞き及んだ知識と経験がものをいう。知識と経験がなければたとえ大人でも警戒心は培われない。箱入り娘がころっと騙されたりするのが良い例だ。」
箱入り娘と一緒にすんな。
「いかにも怪しければ話は別だろうが、アレらはお前の記憶が無いのは知らなかった筈だ。その上でお前を騙そうと策を講じた筈。そこに記憶がないお前が引っかかることは想定出来た話だ。それを考慮せずにおざなりな注意喚起しかしなかった私が悪い。」
「はぁ?」
「何者であっても誰一人家に招き入れるな。応答するな。しつこければ私の名前を出して追い払え。それでも帰らなければ魔法警察に通報しろと指示すべきだった。」
やー…確かに未就学児のガキにはそういうのが一番だろうが、俺はそこまでガキじゃ…いや…神覚者も知らなかったけども…。
「ちっ!」
「舌打ちをするな。」
「うるせぇ。」
もうどう言ったところで勝てる気もしなくてシーツの中に潜り込む。やってることがまるでガキ。クソ!腹立つ!別に説教されたかった訳ではないが、説教に値しないと言われているのはそれはそれで腹が立つ。
「今のお前が同じ事をしたのなら許さんが、あの時までのお前がしたことに言う事はない。」
「うっせ!うっせ!バーカ!」
「子供か。」
知らん!もう知らん!寝る!なげぇため息吐いてんじゃねぇ!
翌日俺が起きた時にはあいつはもう居なかった。1日入院っていっても朝っぱらから退院すんな。起床と共に退院はおかしいだろ!看護師さん達が大変だろうが!
俺よりアイツの方が確実に重傷だったはずだが、アイツは退院した日の夕刊で"襲撃犯を自ら逮捕"の見出しと共にボロ切れみたいにされた男と一面を飾っていた。侵入者よりボロボロにされてないか?
俺は記憶を吹っ飛ばしていたこともあって3日入院で、必要があるのかよくわからない精密検査をうんざりするほど受けさせられた。
退院日の午前中にやってきたあいつは似合わないパイプ椅子に座って俺を見る。
「んだよ。」
「退院後はどうする。うちに居ても構わないが旅に戻るのか?」
「まぁな。まだ行きたいとこあんだよ。あと2箇所行きたいところがある。魔法局の試験日までには戻ってくるさ。」
「魔法局である必要はない。」
「あ?」
はぁん?暗に魔法局に入れねぇって言ってるか?それとも俺は魔法局にはいらねぇって?
「したい事が向いていないこともあるし、向いていることがしたい事ではないこともある。父の意向に添う必要はない。私のコネは使わせんが保証人だなんだは私を使って良いから好きなところに就職しろ。もし向いていなくともどうとでもなるし、向いているならそれに越したことはない。」
コイツは俺が旅に出る時に両親に俺の説得を頼まれた。その時コイツは俺に好きにしろとだけ言った。コイツは本当に俺に興味がないなと思ったんだが、もしかしてこういう意味で言ってたのか?
「…テメェまさか前から言ってた好きにしろってそういう意味か?」
「そうだが?」
「わかるか‼︎」
「なにがだ?」
コイツの周りは余程察してくれる奴が多いらしい。経験か?経験が有れば察せるのか?いや、父さんが察しているのは見たことがない。経験値はたぶんあんまり関係がない。きっと魔法管理局と神覚者の皆さんの心が広いんだろう。
「テメェはもっと周りに感謝した方が良いぞ。」
「今はお前の話をしていた筈だが?」
「うっせ!バーカ!」
魔法管理局の皆々様はあまりコイツを甘やかさないでいただきたい。仕事は出来るのかもしれないが、コミュニケーション能力が低すぎる。もう少しどうにかなりませんでしたかね?いや、そもそもマドル家が悪いと言われたらぐうの音も出ないからむしろこちらが謝罪すべきかもしれない。