懐かしい香り昔から時々見る夢がある。
その夢の中では父は昔のまま優しく強い炎柱で、弟と三人で穏やかに暮らしているのだ。
目が覚めると大抵自分は泣いていて、虚しく胸にぽっかり穴が空いたような気分になるのだった。
だからこの日も目を開けると精悍な父が魘されていたぞと心配そうに見下ろしていたので、ああ、あの夢だと杏寿郎は思ったのだった。
夢だと分かっていても、父に優しくされるのが嬉しくて今この一時だけでもと、起き上がった杏寿郎は槇寿郎に抱きついた。
父は驚いたようだったがぎこちなく抱きしめ返してくれた。ああ懐かしい香りだ。そうだった。貴方はこんな匂いがするのでしたね。
酒の匂いなど微塵もない清潔な石鹸や微かに香る整髪料の香油が混ざった懐かしい匂いに酷く安心する。何という臨場感。まるで現実のようだった。
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