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    雲さん

    妄言呟き垢

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    雲さん

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    傀博♂
    タイトル通りのほのぼの話
    ファントムが通常運転してます

    ファントムのドクター観察日記 きっかけは些細な出来事だった。
     とある日の執務中、ドクターにじゃれつこうとデスクの上に乗り上げたミス・クリスティーンの後ろ足がインク瓶にぶつかり、デスクに置いていたノートへ溢してしまった。
    「すまない……」
    「君のせいじゃないよ、クリスティーンもね。ちょっとぶつかっただけだもんね?」
     ね〜?と間延びした声でミス・クリスティーンに話しかけるドクターにそれに返事をするように小さく鳴く彼女。その微笑ましい光景に思わず頬が緩む。それを眺めつつ、デスクに汚したインクを黙々と拭い取り、一息ついていると、ドクターからノートを一冊手渡される。
    「……これは?」
    「このノート君にもあげる」
    「いいのか?」
    「これ、最近購買部で買った特売品のノートなんだけど装丁が綺麗で気に入ってるんだ。だから君にもおすそ分け」
    「しかし……」
    「大丈夫大丈夫。重要書類は無事だし、ノートも表紙がインクまみれになっただけだから!」
    「……ならばありがたく頂こう」
     ドクターに渡されたのは、植物の蔦を模した模様がついた落ち着いた色をした美しい装丁のノート。真っ白なページは埋め尽くされるのを今か今かと待ちわびているようにも見えた。だが生憎、私は文字を書く習慣はあまりない、精々ドクターに提出する報告書を書く時ぐらいだろう。仕舞い込むのも勿体がない、折角ドクターから貰ったものだ、丁寧に、大切に、大事に使いたい。
     ならば日記を書こう。
     そう決めるや否や私はペンを執った、真っ白なページへと自分の好きなものを好きなように記録に残そう。今日から私が書き連ねるのはドクターの観察日記である。

    ✕✕月✕✕日(晴時々曇)

     今日から日記を書く。
     インク瓶を溢したミス・クリスティーンの体を洗う為にドクターの部屋の浴室を借りる。ドクターが手ずからレディの体を洗っているからか、濡れる事を厭う彼女も嬉しそうにしていた。ドクターも痒い所はありませんか?などと美容師の真似事をして楽しそうに彼女と戯れていた。濡れた体を丁寧に乾かせば、彼女の毛並みは一段と艶々と美しくなり、その仕上がりにドクターも満足しているようだった。
     明日はドクターと一緒に溢してしまったインクを新調する為に停泊している移動都市の市街地に向かう予定だ。


    ✕✕月✕✕日(曇のち晴)

     停泊ポイントからの市街地への移動が車ではなかったからか、徒歩で移動した我々が目的の店へ着いた時にはドクターは少しだけ疲れていた様子だった。
     以前にドクターはインクは沼だと言っていたが今日ようやくその意味が解った。これほどに色とりどりの種類があるのなら沼と言う表現も頷ける。
     ドクターは長い間インクを見て悩んでいるようだったが、普段使い用に黒のインクを、そして珍しくブルーグレーのカラーインクも選んでいた。私の外套のベルトと同じ綺麗な色だと言って嬉しそうに私に微笑みかけてくれた。
     なんの変哲もない衣服としか思っていなかったが、ドクターが綺麗だと言ってくれるのなら意味のあるように思えるから不思議だ。


    ✕✕月✕✕日(雨)

     今日は生憎の雨、ドクターは病棟の子供達と甲板で紙飛行機を飛ばす約束をしていたようだったがそれは叶いそうになかった。
     朝方には残念そうに窓ガラスの向こうをちらちらと眺めていたドクターだったが、次第に雨による気圧の変化で頭痛を起こしてしまった。執務室の椅子に座るのが体に障るのかソファーに寝転びながら仕事をしていた。
     その姿を見つめながら彼に行儀が悪いとも仕事を休めとも言う事は出来なかった。ドクターが眉根を寄せて時折痛みに耐える様子が痛ましい、医者でもない私が出来ることなど少ないもので、医療部から受け取った頭痛薬と常温の水を差し出し、それをドクターに飲ませるが、いつもよりもグラスを持つ手が弱々しく不安になってしまう。
     早く元気になって欲しい。君が健康でいる事が私にとっての喜びなのだから。

    ✕✕月✕✕日(晴)

     今日はドクターが執務室で仕事をしながら、時折執務室のソファーに座っている私を眺めていた。視線を感じる、とは思っていたが、どうやら私を観察していたらしい。
     特に用がある訳でもなく、ただ見ているだけのようで、ふとした瞬間に顔をあげて私の姿を確認すると、柔らかい微笑みを浮かべ、またすぐに手元の書類へと意識を戻す。
     その様子がなんとも可愛らしく、彼の邪魔にならないようそっとしておいてあげようと思う反面、つい構って欲しくなって話しかけてしまう。するとドクターは嬉しそうな表情をして、少しだけ仕事を中断してくれるのだ。
     彼と共に過ごす時間が増えれば増えるほど、彼が愛おしくなる。離れがたくなる。


    ✕✕月✕✕日(霰)

     突然だがドクターの髪は長い。
     今日は年若いヴァルポとペッローのオペレーターがドクターの髪の手入れをしたいと言い出したので、私は側でそれを眺めていた。
     療養庭園から持ってきた色とりどりの花を彼女達は思い思いにドクターの髪へと飾っていく。
    ドクターはされるがままといった様子で目を閉じて、時折くすぐったいのか肩を震わせていたが、次第にドクターの髪に触れる彼女たちの手つきの優しさに思わずウトウトと船を漕ぎ始めてしまっていた。
     ややしばらく経ち、ようやく完成したドクターのヘアアレンジに彼女達も満足そうに歓声を上げ、可愛らしいとドクターを褒めそやす。
     彼女達の喜びように、恥じらいつつも照れくさそうに微笑むドクターの姿を瞳に収めながら、私も彼の髪に触れられたらどんなに幸せだろうか、などと不埒な考えが頭を過らせていた。
     こっそりと花で飾られた彼の姿を写真に収めた事を許して欲しい。

    ✕✕月✕✕日(雨のち晴)

     昨日の雨は夜更け過ぎに止んだようだ。朝起きると空は綺麗に晴れ渡っており、窓から見える風景は水溜りと雲一つない青空で彩られていた。
     執務室の扉を開けると、ドクターは朝方に受け取った様々な手紙に目を通していた。各支部に在駐するオペレーターの近況報告や、取引先からの手紙、艦内スタッフからの手紙など、内容は多岐にわたる。そんな手紙を読んでいたドクターのぴたりと手が止まる。どうしたのか尋ねると、顔を赤くして手紙の主から告白されてしまったと小さな声で答えが返ってきた。
     その瞬間に胸を芽生えるのは、焦燥感や独占欲といった見るに堪えない暗闇のような感情ばかりだった。だが私は慌ててそれらを振り払い、努めて平静を保った声で、返事はどうするのかと確かめてみる。
     ドクターは困ったように眉を下げ、断ろうと思うとまた小さな声で答える。その声はどこか震えていて、普段の様子からは想像できないくらい弱々しいものだった。
     それにどこかほっとしている自分がひどく醜く感じた。
     私がこの想いをドクターに直接伝えたとして、今と同じように困らせて表情を曇らせてしまうのだろうか?
     それは私の本意ではない、だが受け入れて欲しいと願ってしまうのもまた事実だった。ドクターの側に居るためには、私はどうすれば良いのだろう?


    ◇◇◇◇◇◇◇

     とある日、ロドスの狙撃オペレーターであるシュヴァルツはドクターの執務室へと足を運んだ。
     訪ねた理由としては、自身の"友人"であるセイロンの頼みで体力向上の為にシミュレーターを使った実践訓練の許可をドクターから貰う為だった。
     ノックをしたが返事はなく、いつもの居眠りでもしているのだろうかと考えパスコードを入力して執務室へと入る。扉を開けてすぐにドクターの姿が目に飛び込んで来るかと思ったが、予想に反して部屋の中には誰もおらず、しんと静まり返っていた。
    「不在でしたか……サインをもらうのは少し先のようですね」
     そのまま部屋の中へ歩を進め卓上のホワイトボードを見てみると、"重装オペレーターとのブリーフィングにより不在、15時終了予定"と規則正しい整った形をした文字でドクターの伝言が書き込まれていた。
     それを一瞥して出直そうと踵を返したシュヴァルツの視界の先に、一冊のノートが見えた。なんの変哲もないドクターの所持しているノート、それがページを少し開いた状態で置かれていた。
     中身が見えてしまってはいけないと思いノートに手をかけた瞬間に、ついちらりとページの内容が目に入ってしまう。
    そこで見えたのはいつものドクターの書くお手本のような整った文字とは違い、流れるような美しい筆記体が紙面に書かれていた。そしてその文面には、至る所にドクターの名前が登場しているようだった。
     どうやら持ち主はドクターではない者のようだ。
     いったい誰がこれを書いたのか……と思いながらノートを閉じたときに、背後に誰かがいる気配を感じ勢いよく振り向くと、ドクターの護衛を勤めるファントムがそこに静かに佇んでいた。
    「……人の書いた物を許可無く見るのは些か不躾ではないか?」
    「失礼しました……貴方の物でしたか」
    「ああ、忘れた事に気が付いたので取りに来た」
    「その……失礼を重ねて伺いますがこれは日記ですか?」
    「いかにも。私が書いたドクターの観察日記だ」
    「観察、日記……」
    「何か問題でも?」
    「………………いいえ、特には」
     シュヴァルツが怜悧な眉を顰めて問いかける間、ファントムは見られた事に対してなんら羞恥心が無いのか、姿を現した時と変わらない淡々とした表情でその問いに答えている。知合である元同業者が、自身が勤める企業の上司に対して若干のストーカー紛いの観察日記をつけている事にとてつもない不安が胸をよぎったが、他人の日記を勝手に覗いてしまった罪悪感からそれを言葉にする事は出来なかった。
    「見つかったのが私で良かったですね、他のロドスの人間であれば貴方は吊るされていたかもしれませんよ」
    「私はここではただの亡霊だ、存在を知るものは少ない……だが忠告は感謝する」
    「ドクターにも見られないように注意したほうがいいかと」
    「……彼は誠実で優しい人だ。たとえ開け広げて置いていたとしても、持ち主がいない場所で読みはしないだろう」
     ファントムはそう呟きながら愛しげにノートの表紙を指でなぞり、ドクターの事を思い出しているのか口角を上げて薄く微笑む。ドクターの名前を出した途端に、彼が纏う雰囲気は穏やかで柔らかなものになり、その様子を間近で目撃したシュヴァルツはその変化に目を見張った。
     これもドクターの人徳や性格が為せる技なのだろうか、一つの場所に留まることのなかった流浪の暗殺者をここまで手なづけた上司の手腕に、ただただシュヴァルツは感心していた。

    ◇◇◇◇◇◇◇


    ✕✕月✕✕日(霧)

     今日のドクターは狙撃オペレーターのサンクタ人達とお菓子づくりをしていた。
     アップルパイを作る為にプラチナブロンドのサンクタ人から林檎の皮を剥け、と指示をされたドクターだったが、あまりにも危なげな手つきだった為たまらず私が代わって皮を剥く。
     次に赤髪のサンクタ人のレディに猫の手で林檎をイチョウ型に切るように、と朗らかな声で次の工程を伝えられたドクターは、作戦を練っている時と同じような真剣な顔で頷くと、手を緩く握り、私の方をじっと見つめ、何を思ったのか握った手を胸の近くに掲げて小さな声でにゃ、と一声鳴いた。
     その瞬間の衝撃はまさに鈍器で殴られたかのような重い一撃に等しかった。
    きっとなんの意図もない、ドクターの戯れだとは思うが、予告なくぶつけられた可愛い仕草に脳だけではなく視界まで揺れる。本当に可愛らしかった。
     焼き型に詰めれられたパイ生地と林檎がじわじわと焼き上げられていく過程の芳しい香りがキッチン中に広がる、完成への期待に瞳を輝かせ、オーブンのオレンジ色の光に照らされるワクワクとしたドクターの稚い横顔を私はじっと見つめていた。
     出来上がったアップルパイはおいしかった。


    ✕✕月✕✕日(晴)

     ロドスではイベント事が多い。今日はこの月に生誕した者達を一同に集めた誕生日パーティーが催された。和気藹々とした雰囲気のなか、ドクターも珍しくお酒を少し飲んで、あっという間に酔いが回ってしまったようだった。
     酔っ払ったドクターは蕩けきった表情をしていた。見たことが無いほど、無防備で、可愛らしく、そして隙だらけだった。
     千鳥足が縺れて躓きそうになったドクターを受け止めると、ドクターの温かさとふわりとドクターの優しい匂いが香って、思わずこのまま攫ってしまいたい衝動に駆られる。
     私を抱きしめ返しながら、こちらへ向かって微笑むドクターを抱えあげて部屋に運べば、部屋で一緒に飲み直そうと誘われる。
     それを丁重に固辞してドクターをベッドに寝かせると、あっと言う間に寝入ってしまった。
     暗闇の中で、静かに寝息を立てるドクターを見つめながら私は何を思ったのか彼の髪に口付けを落とす。
     自分の衝動性に驚きつつ、触れられた満足感にまた胸が高鳴る。だがこれ以上はいけないと思い返して、私は部屋を後にした。

    ✕✕月✕✕日(小雨)

     昨日の飲酒が祟ってドクターは朝から二日酔いで苦しんでいた。昨日私と何をしたのかは覚えていないようだった。
    食堂から運んできた二日酔いの為のメニューをドクターに食べさせ、薬を飲ませると、ドクターは申し訳なさそうな顔をしながら礼を言っていた。
     潤んだ目でゆっくりと私の手ずから食事を摂るドクターに言いようのない幸福や庇護欲をそそられながら、彼が食事を終えるまで見届ける。雛鳥のようなドクターの姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
     とてもではないが、彼は仕事ができる状態ではないので、ミス・アーミヤからも今日は仕事は休んでも良いと許可されていた。
     全快した後の仕事量が怖い、と青い顔をして震えるドクターに笑いかけながら私はドクターの看病を続けた。

    ✕✕月✕✕日(雪)

     今日はあのカランド貿易のCEOの訪問日だった。
     正直に言えばあの男は苦手だ。だがドクターの手前、あの男を敵視するのはまずいと言うのは理解している。私情は抜きにして、淡々と仕事をこなすべきだろう。
     それにしてもあの男のドクターを見つめる眼差しには覚えがある。あの目は私と同じ色をしている。
     私はドクターを愛している。だからこそ誰にも渡したくない、私だけが側に居たい。私がその望みを彼に伝えたとして、彼は私だけを見つめてくれるのだろうか、私と一緒に生きてくれるのだろうか。
     最近は彼の側にいるとどんどんと思考が危うくなってゆく。だからと言って私は彼の護衛を辞めたくはない。
     こんな子供のような我儘を、暗く淀んだ独占欲をドクターに伝えたとしてドクターが私の思い全てに応えてくれる事はないのは自分でも解っている。
     ドクター、君が好きだ。愛している、どうか私だけの君で居て欲しい。















    ドクターに口付けをしてしまった。


















    ✕✕月✕✕日(晴)

     久しぶりに日記を書く。
     読み返してみれば、殴り書きのメッセージを残したまましばらく筆を置いてしまっていたようだ。
     ここ最近の私の変化と言えば、ドクターと交際を始めた事が一番の変化だろうか。
     衝動的に彼に口付けをしてしまった数日後。ドクターと膝を突き合わせて話をした結果、なんの奇跡かドクターも私を愛してくれているということが解った。
     手を握っただけでだけで顔を赤くして俯いてしまう彼を見ると、このままどうにかしてしまいたい衝動に駆られる。
     長く欠けていた何かが、埋まるような心地がする。彼を好きでいて、諦めないでいて良かった。
     これからも側にいられるのだと思うと期待と喜びで胸が焼き切れそうになる。

     愛してる、君をずっと。




    ◇◇◇◇◇◇◇


    「ん? このノートって……」
     私がファントムの部屋で過ごしている時に発見した一冊のノートは、以前彼にプレゼントしたものだった。
     中身を見るなんて失礼なことはしないけれど、それでも目が離せなくてノートの表紙を指で軽くなぞる。使い込まれている様子を見る限り、彼にこれを渡した日から日常的に使ってくれていたのが解って顔が綻んでゆく。
    「ドクター、何を……」
     簡易キッチンで紅茶を淹れていたファントムが戻って来た、見開いた瞳の先にはテーブルに置かれたノートが映っている。
     今日は二人揃っての休日だ。滅多にない機会をゆっくり過ごそうと彼が誘ってくれたので、ファントムの部屋でお菓子や軽食を持ち寄ってお茶会をして過ごすことにした。
     ファントムの部屋に向かう道中、ばったり会ったテンニンカとエイプリルに予定を聞かれて正直に答えると「それってお部屋デートじゃん!」と言われ、こういった事がデートであると意識していなかった私は、通路の往来で盛大に頬を赤くして二人を心配させてしまった。
    「ええっと、見てないから安心して。このノート、使ってくれてたみたいで嬉しい」
    「君がくれたものだからな。……君ならば中身を見ても構わないぞ」
    「ええっ?!」
     柔らかい微笑みを携えたままファントムが私の隣に腰を降ろす。正直に言えばものすごく見たい、でも遠慮なく見てしまうのも何か違う気がした。ファントムのこの発言には何か裏があるのでは? と思考を巡らせつつ、ノートに移した視線をまた彼へと戻せば、先ほどと変わらない微笑みを湛えながらこちらをじっと見つめていた。……もしかして、試されているんだろうか?
    「いやいや、プライバシーもあるだろうから遠慮しておく。私に知られたくない事のひとつやふたつあるでしょう?」
    「確かにあるが。重ねて言うが君ならば一向に構わないぞ」
    「う〜ん、う〜ん?…………いや、遠慮する」
    「そうか」
     けろりとした表情で紅茶を啜るファントムを横目でちらりと伺いつつ、私も彼に倣って紅茶を飲む。うん、今日も美味しい。
    「でもあのノートもうすぐ使い切りそうだね」
    「そうだな。折角君がくれたものなのに使い切ってしまうのは残念だ」
    「そんな大げさな、あれ特売品のやつだよ。……そうだ、明日は市街地に行くからもう少し上等なノートとインクでも買いに行く?」
    「いいのか?……それならば」
    「ファントム?」
     ファントムの目が何か愉快なものを見つけた時のようにきらりと光る。不意に重ねられたファントムの手にあたふたとしていると、その様子に苦笑した彼が耳元で囁く。
    「君と揃いのものが欲しい」
    「ひぎゃっ??! ななな何? お揃い?」
    「駄目だろうか?」
    「駄目な訳ないよ。うん、お揃いのやつ買おうか」
     私の慌て具合を見てファントムは不安気に耳を伏せたが、お揃いを了承すると嬉しそうにこちらに擦り寄ってきた。声も心なしか弾んでいる。
    「インクも君に選んで欲しい」
    「いいよ、じゃあまたあの店行こうか。あそこの街にも支店があるんだって」
    「そうか、それは楽しみだ」
     先ほど重ねられた手は今はもうファントムの手のひらにすっぽりと包まれている。素肌同士が触れ合って体温が緩やかに混ざり合うのが解って顔にも熱が集中する。最近は二人きりになるとこうして触れ合う回数が増えて、ファントムが沢山甘えてくれるようになった、それが恥ずかしいけどとても嬉しく感じる。
    「ね、私も楽しみ。ノートは買ったら何を書く予定?」
    「…………私も、あのノートも同じように、留めておきたい事などただ一つだけだ」
    「……?、よく解らないけど君が楽しそうなら何よりだよ」
     嬉しそうに目を細めるファントムを見つめながら、お揃いのノートに少しだけ思いを馳せる。
     まだまだ私はファントムの事は知っているようで知らない部分もある。きっとそれは長く過ごす度に増えてゆく。それなら私はそのノートにファントムの観察日記でも書こうかな。
     きっと書き進めたページが増えるごとに、彼への愛おしさも同じように募るのだろうと想像して、温かな感情を胸に抱えながら、私は彼に包まれている手をそっと握り返した。

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