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    kirikooon

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    kirikooon

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    シャアシャリ。昨日、pixivに上げたものの間の話。ファミレスと家に行くまで。

    これも運命 の中間 気付けば喫茶店の窓から見える景色はすっかり闇に溶け込んでいた。青年との会話は時間を忘れさせるほど楽しかった。趣味が合うというのもあったが、会話のテンポが心地よいのだ。年上の自分がそう思うなら、きっと若者が気を遣った結果だろう。素直に相性が良いと受け取るほど浮かれてはいない。自分の落ち度を認識すると、すこしだけ安心した。

    「そろそろ解散しましょうか」
    「ああ、もうこんな時間か。このまま夕食でもどうだ?」
    「やめておきます。カフェくらいは、という話だったでしょう」
    「いいじゃないか。どうせ今日は外食するつもりだ。ひとり寂しく過ごすより、貴方と話しながらの方が絶対良い日として終えられる」

     駄目か、と上目遣いで伺われると困る。顔の良さを分かってやっているのだろう。シャリアはあえて彼の肌のきめ細かさを意識した。20歳になったばかりの若者。美人局。絵画販売。壺かも。こんなに美しい青年が自分に心を傾けるはずがない。随分と長居してしまったが、名残惜しい気持ちで別れるくらいが良い思い出には丁度いいのだ。駄目です、と答えて机に置かれた彼のサングラスを手渡した。これ以上問答するつもりはないと示したつもりだった。青年は受け取ったが、説得に応じた様子はなく、むくれている。

    「……私にだけ奢らせるつもりか?」
    「奢る? なにを」
    「ここの会計は済んでいる。貴方から金を貰うつもりもない」
    「万札をポッケにねじ込んであげましょうか」

     いつの間に、と抗議している間に彗星はここに行こうと店を出るように促してくる。見せられた画面には安さが売りのファミレスだった。少なくともはじめてのデートで連れて行くような場所ではない。

    「やはり壺、ですか…?」
    「売るほどのコレクションは持っていないな」

     嘘は言っていない気がする。そもそも本気で彼が詐欺をしようと疑っているわけでもない。ただあまりに非現実的で、疑いでもしないと道を踏み外しそうだった。勘違いでなければ口説かれている、ような気もする。元々がマッチングするためのアプリなのだから、これが当たり前なのだろうか。
     二の足を踏むシャリアに彗星はグッと近づいて、腰を抱くようにした。近寄るとうっすらと香水の匂いを感じる。甘く柔らかな香りだ。シャリアのイメージする彼の印象とは違っていたが、その上品さには合っていた。

    「店のチョイスで採って食おうと言う訳じゃないのは分かるだろう。貴方と話すのは楽しい。もっと話したい。それだけじゃ理由にならないか?」
    「言葉と態度が一致していない状況で言われましても」
    「ん、それもそうか」

     彗星はシャリアの腰の辺りを撫でた後にパッと手を離した。気付けばジャケットのポケットが重い。取り出してみると先程まで画面を見せられていた青年のスマートフォンだった。

    「じゃあ着いてきてくれ、はぐれないように」
    「ちょっと……!」

     はぐれるなと言ったくせに若者はシャリアの腕を掴んで歩き出した。小走りとまではいかないまでもかなり足早だ。スマホを押し返すには落として画面を割りそうで、結局シャリアは彼の端末を握りしめたまま引き摺られるように着いて行くことになった。

    -----

    「ワインが趣味とあったが、こういった店では貴方の欲求は満たせないかな」
    「……飲むつもりですか」
    「もちろん。師がいるのに教えを請わないのも損だろう」
    「あなたはドリンクバーの方が楽しめるのではないですか」

     観念してファミレスの席に腰を落ち着けると、彗星は即座にワインメニューを広げた。食事に合うラインナップと良心的な価格帯で、味の度合いも分かりやすく記載されている。シャリアがアドバイスするまでもなく、彼の好みで決めれば良いだろうと思ったが、相手はついこの間成人したばかりなのだ。飲み過ぎない程度には誘導してやりたい。

    「好んで飲みますが、そう良い舌を持ってもいません。高いから良いというものでもありませんし、まずはボトルより安めのグラスワインで試してみてはどうでしょう」
    「なるほど。しかし安過ぎて逆に手が出しづらい」
    「ボトルも1杯に換算すればそう変わりません。企業努力の賜物ですね。私もいただくとしましょう」

     シャリアも飲むと言えば、青年は露骨に嬉しそうな顔をした。解禁されたばかりの酒をひとりで楽しむのも味気ないのだろう。シャリアはそれなりに量を飲めるタイプなので、彼が続いてボトルを頼むようなら奪ってやるつもりでいる。なにより酒より食事で腹を膨らましてもらいたい。相談しながら普段より多めにつまみや食事を注文すると、先に頼んでいた赤のグラスワインがサーブされる。

    「思ったよりも可愛らしいサイズだな」
    「お試しには丁度いいでしょう」
    「子供扱いしていないか?」
    「体質的に合わない、ということもありますから」

     彗星は自分の若さを自覚しているようで、それ以上噛み付いてはこなかった。しかしグラスワインのチープさには納得していないらしい。勧めたのはシャリアなので、彼の好きなように選ばせてやれば良かったかとすこし反省した。

    「気に入りませんか?」
    「そんなことはない。……ただ貴方とはじめて飲み交わす赤は、もう少し格好のつくところで頼めば良かったと思っただけだ」
    「ふふ、なんですかそれ」

     ホテルのバーラウンジでグラスを鳴らす自分達を想像して、笑えてくる。目の前の青年は洗練された装いと所作でそれはもうその場にカチリと嵌るだろうが似合いすぎる。そしてその相手が自分ではなんとも格好がつかない。

    「あまり笑ってくれるなよ。本気で言っているのだから」
    「失礼、可愛らしいことを仰るので。ほら、乾杯」
    「ああ、貴方に出会えた幸運に」
    「あははっ」

     気障な台詞も美しい青年も、安っぽいシチュエーションに不釣り合いで、シャリアはまた笑った。笑い声なんて久々に上げた気がする。ワインは思ったよりもずっと美味しかった。

    -----

     最後にもう1本だけ、と甘めのスパークリングワインを頼んだのが良くなかった。ボトルは持ち帰りもできるらしく、無理な飲み方はしないだろうから許したのだが、飲み口が良いせいで彗星はするすると杯を重ねて今は机に突っ伏している。年上として情けない。急性アルコール中毒になっていないかと不安だ。彼の隣に腰掛けて軽く揺する。

    「大丈夫ですか?」
    「うん、しんぱいない」
    「吐き気は?」
    「ない。すこし眠くなってしまった…」

     芯のない声でしなだれるように体重をこちらに預けられ、思わず身を引きそうになるが、そうすれば彼が倒れてしまう。服越しに触れた肌は熱く、こちらを見上げる瞳は潤んでいた。これが個室であれば色気に当てられでもしたかもしれないが、幸運にもファミレスの一角である。少し離れたテーブルから様子を伺う気配を感じ、冷静になる頭に命拾いをした心地がする。が、状況は良くない。とても良くない。
     こんな状態の彼を衆目に晒したままにはできず、水を飲ませている間にタクシーを手配することにした。仕事の都合で終電を過ぎることもあって、配車アプリは使い慣れている。タクシー代は自分が持つことになるが、若者を悪酔いさせた代金だと思えば仕方ないだろう。

    「タクシーを頼みましたから、目的地だけ伝えてくださいね」
    「貴方も乗っていけ」
    「乗りませんよ、ひとりで帰れますよね」
    「無理だ、寝てしまう……」

     会計を済ませて店の前でタクシーを待つ間も彗星はうだうだとシャリアを離さなかった。寝ないために会話を続けようとしているのもあるのだろう。聞けば車で10分もあれば家に着くのだと言う。駅にも近い立地だったので、彼を家の玄関まで送り届けて電車に乗ってしまおうかと思い始めていた。彼ほど顔が良いと、タクシー運転手相手でもひとりにさせておける気がしない。

    「仕方ない人だな」
    「……わがままは嫌いか?」
    「わがままというか、初対面の人間をあまり信用しすぎないでください」
    「貴方なら、知られてもいいよ。これからも通ってくれ」
    「酔っ払いの戯言は聞きません」

     程なくして到着したタクシーで彼の家に向かうまでの間、青年は僅かな時間で寝入ってしまったのか静かだった。ただ熱い手のひらがシャリアの手の上に緩く重ねられている。流されている自覚があった。窓の外を見知らぬ景色が通り過ぎていくのがいよいよ現実感を遠ざけていく。分別のある大人なら、振り払わなければならない。指を僅かに動かせば、青年の手に力が入った。寝ていなかったのか。彼の方を振り向くと、「もうすぐ着く」と唇が小さく音を紡いだ。なにも言葉にできそうにない。青年の視線から逃れたくて、シャリアは再び車窓に目を向けた。

    つづく
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    kirikooon

    DOODLEシャアシャリ。昨日、pixivに上げたものの間の話。ファミレスと家に行くまで。
    これも運命 の中間 気付けば喫茶店の窓から見える景色はすっかり闇に溶け込んでいた。青年との会話は時間を忘れさせるほど楽しかった。趣味が合うというのもあったが、会話のテンポが心地よいのだ。年上の自分がそう思うなら、きっと若者が気を遣った結果だろう。素直に相性が良いと受け取るほど浮かれてはいない。自分の落ち度を認識すると、すこしだけ安心した。

    「そろそろ解散しましょうか」
    「ああ、もうこんな時間か。このまま夕食でもどうだ?」
    「やめておきます。カフェくらいは、という話だったでしょう」
    「いいじゃないか。どうせ今日は外食するつもりだ。ひとり寂しく過ごすより、貴方と話しながらの方が絶対良い日として終えられる」

     駄目か、と上目遣いで伺われると困る。顔の良さを分かってやっているのだろう。シャリアはあえて彼の肌のきめ細かさを意識した。20歳になったばかりの若者。美人局。絵画販売。壺かも。こんなに美しい青年が自分に心を傾けるはずがない。随分と長居してしまったが、名残惜しい気持ちで別れるくらいが良い思い出には丁度いいのだ。駄目です、と答えて机に置かれた彼のサングラスを手渡した。これ以上問答するつもりはないと示したつもりだった。青年は受け取ったが、説得に応じた様子はなく、むくれている。
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