シャリアはキスが好きだ。それに気付いたのは明確にお付き合いを始めてひと月も経たない頃で、察しが良くない自覚のあるエグザベですら分かったのだからそれなりだろう。人目のある場所ではエグザベを懸想する様子など見せないくせに、ふたりの家に帰ると事あるごとに口付けられるのだ。
挨拶のような軽いものから深く舌を絡ませ合うものまで、数えきれないほど与えられてきた。互いの皮膚に触れ合う時、シャリアは心を開いてエグザベに好きだと伝えてくれるので、エグザベもシャリアとのキスが好きだ。年上の、余裕に満ちた大人がひたむきに好きだと柔らかい愛情を示してくれるのは、エグザベをどうしようもない気持ちにさせる。好きだなあと思う。きっとそれはシャリアにも伝わっていて、口付けの後にふわりと幸せそうに目尻を下げる様に、また好きだと思う。
「ふっ、ん……」
「シャリアさん…、好きです」
ぐっとシャリアの身体を引き寄せてより深くつながり合う。少し強引なくらいで良い、と言われていた。エグザベは恋人には優しくしたいのだが、夜を連想するような場ではその方がシャリアの食いつきが良いのでつい求められるように振る舞ってしまう。恋人の趣味に付き合っているのだから優しさだとシャリアは捉えているようだったが、要はカッコよく見られたいとかその気になってもらいたいという下心なのだと態々訂正したのは恥ずかしい思い出だ。
現役パイロットだけあってシャリアの肉体は程よく鍛えられ確かな厚みがある。彼はいつもエグザベの意図を汲んで従ってくれる。自分を信頼して身を委ねてくれているのが嬉しかった。顔が見たいな、と少しだけ唇を離そうとすると、引き止めるようにシャリアの舌がそろりとエグザベの口内に入り込む。再び舌を擦り合わせ、唇を吸い、身体を寄せ合う。密着した服越しの体温が熱くて、彼も自分に欲情するのだと嬉しかった。
「やっぱりエグザベくんはキス好きですね」
「えっ……?」
「自覚なかったんですか」
飽きるくらいに唇を重ね合い、唾液でベタベタになった口周りを拭ってシャリアが言う。キスが好きなのは僕よりもあなたでは、と口にしてしまいそうだったが、蕩けた眼差しが愛おしげにこちらに向けられている。確かに。きっと渡した以上のものを貰っていた。
「えっと、頑張ります!」
「なにを?」
「語彙力とか、たまにはサプライズとか」
「……そういう話でしたっけ?」
「シャリアさんに僕のことをもっと好きになってもらいたくて」
今はまだ彼の懐の大きさに敵わないけれど、こちらからの愛情ももっと返したい。ふに、と彼の唇を親指の腹でなぞる。シャリアは「今以上、ですか」と顔を赤くして目線を逸らした。
完