てるてる坊主『てるてる坊主、てる坊主、あーした天気にしておくれ』
子供達の笑い声が響く。白い布切れを持って、思い思いの形に丸めて顔を描く。
出来上がったてるてる坊主は大人達の手で本拠地のあちこちの窓辺に吊るされた。
ノースウィンドウ周辺は雨の日が続いていた。陽光は久しく顔を覗かせていない。
窓を叩く小さな雨粒、湿気を含んだ髪や服。土や石畳が濃く色づく。あちこちで大きな水溜まりが出来上がっていた。
鬱屈した気分は士気を下げる。晴れ間を求めて、てるてる坊主に願いを込めた。子供達が歌う。大人達も一緒に祈った。
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ
それから半刻ほどで、天気はみるみる好転した。
ひとたび雨足が弱まれば、澄んだ空気を求めて皆が一斉に窓を開け空を仰ぐ。晴れ間を求めて子供達が一斉に手を伸ばし駆け出した。晴れた晴れたと、街が一気に活気付く瞬間。
浮き足立つ気持ちを抑えて、ナナミは急ぎの用でもないのに駆け足で本拠地の一角へと足を運んでいた。
「ヨシノさん、こんにちはー!」
「あら、こんにちはナナミちゃん。今日は交易に行くんじゃなかった?」
「雨続きなんで、古文書とか塩とか湿気るもの持っていけないから延期になりました!お洗濯手伝います」
「助かります。シーツを洗い直すところなの」
「すみません、ブライトが…」
「気にしないでフッチくん。元気でいいじゃないの」
本拠地の洗濯場では子竜のブライトが洗ったばかりのシーツに身を踊らせ転げて遊んだようで、慌てて追いかけるフッチが土で汚れたシーツを集めてまわっていた。
「ブライトも晴れて嬉しかったんだよね」
フッチに捕まったブライトが足をばたつかせて不満そうに高い声をあげる。
「雨のなか飛んでたの?ブライトも濡れてるよ」
ナナミはそう言ってブライトを撫でながら全身の滴を払ってやった。ブルブルとブライトが身を揺すった弾みで、ナナミとフッチの顔はびしょびしょに濡れてしまった。
「ごめんなさいナナミさん!ああもう、ブライト~」
「いいのいいの!すぐ乾くよ!」
「フッチくん、こっちにシーツを持ってきてくださいな」
「あ、はい!あの、僕も洗うの手伝います」
「あら、心強いわ。どうもありがとう」
「お洗濯日和になりましたね」
「ええ、気持ちの良いお天気ね」
一時の平穏な日常。今が戦争中だと忘れさせてくれるような、陽気な昼下がり。
「このままお天気が良ければ交易にも行けそう。交易品に石鹸があったら見繕ってきますね」
「ありがとうナナミちゃん、いつも悪いわね」
「いいんです!いつもお洗濯ありがとう。お日様の匂いがするシーツ大好き!」
泡立った石鹸液にシーツを浸す。ブライトが付けた土汚れがみるみる落ちていくのを魔法のようだと感嘆する。
ピンッと張った真っ白いシーツは陽の光を浴びてキラキラ輝くよう。ブライトが目を輝かせてそれを見つめる。
「こんな日がずっと続けばいいのに」
「え?」
「ううん、何でもない!」
干したスーツが風にたなびく。感情的な心を奮い立たせるように、ナナミはうんとめいいっぱい腕を伸ばして伸びをした。フッチもつられて背筋を伸ばす。
「ヨシノさん、それじゃ私はこれで!この調子なら交易行けそうです」
「ありがとうナナミちゃん、リーダーによろしくね」
「は〜い!」
「フッチくんも行こう!」
「え?交易に?」
「そう!ほら、ブライトも退屈そうだし街に連れてってあげようよ」
「!…そうだね、行こうかな」
決戦は近い。つかの間の、ほんの一時の休息。
てるてる坊主に願いを込めて、この天気のように明るく清々しく在れるようにと精一杯願うのです。ブライトのような生まれたばかりの命がのびのびとあれるように、精一杯の思いを込めて。
てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ