頭には猫耳が生え、語尾が「にゃ」や「にゃん」になる突如現れた奇病。感染経路は未だわかっておらず、ただ1週間もすれば耳がなくなり同時に語尾も治る。身体に影響を及ぼすことはあまりなく、聴力が良くなる程度だという。
「本当に何もないんだな?」
「ないにゃ。だから安心してほしいにゃん」
キラから「少し連絡してもいい?」と通信が入り、すぐに通話を繋ぐ。そこには猫耳が生えた恋人がいて、今流行りの奇病だとすぐに察した。身体に影響はないと聞いているが実際にみると心配になる。ふさふさとした耳は、キラの心情と同期するように揺れている。
「キラの安心しては安心できないからな…ちょうど、コンパスに行く用事があってよかった。長居できない予定だったがキラの猫耳が無くなるまでいれるように調整しよう」
「心配性だなあアスランは。いいのに」
「キラから言われる”大丈夫”と”安心して”は信用してないからな」
「もう…」
口では文句を言いながらも耳は少しだけ外側に向いており、本心では悪くないと思っているのがバレバレだ。
「もし何かあればすぐに連絡しろ。いつでもいいから」
「忙しいのにごめんにゃ…」
「気にするな。むしろ教えてくれてよかった」
あまり時間がなく、すぐに連絡を切る。コンパスに行くのは数日後の予定だったがこれは早める必要がありそうだ。スケジュールを確認し、調整に調整を重ねキラのいる艦へ行けたのはそれから2日後のことだった。
出迎えてくれると思っていたキラはその場におらず、いたのは俺のことがあまり得意ではないだろうシンだった。
「珍しいな、お前が出迎えてくれるなんて」
「俺じゃ不満ですか」
「そうは言ってないだろ」
「そんなことはどうでもいいんです。アスラン、とにかくキラさんの元へ言ってください。というか、連れていきます」
俺の返事も聞かずに先を歩くシンにとりあえず着いていくことにする。キラの部屋は知っているし、シンに案内されなくても行けるのだがシンの様子がいつもと違い切迫した雰囲気だったため、今は別の場所にいるのかもしれない。
案内されたのは艦の中で整備室や機関室から最も遠く、比較的静かな場所だった。
「この部屋にキラさんがいます。多分、アスランならどうにかできると思うから…」
「何があった?」
「キラさん、あの病にかかってから元々よかった聴力がさらによくなっちゃって。まともに立つことすらできなくなったんです」
何かあったら連絡しろと言ったのに、あいつは…。いや、連絡できなかっただけだろうか。「俺のこの声もノイズになってるかもしれないので」とシンはその場を去る。
扉の前で「入るぞ」とだけいい、部屋に入る。そこにはベットが一つ。厚い布団の一部だけが膨れていた。
「キラ」
「あす、らん?」
ゆっくりと布団の中から出てきたキラの耳はぺたんと伏せており、これは恐怖を感じている角度だったか。
「俺の声は平気?」
ゆっくりと近づく。今、全ての音が彼の敵となっているのならこの声も心音も全てダメかもしれない。近づいてもキラが嫌がることはなく、なんならぺたりとしていた耳は安心したのかゆっくりと角度を変える。
「安心するにゃ…アスラン、ここにきて」
ベットに寝転がるように頼まれ指示通りに寝転がる。俺の心音を聞くように、心臓付近に耳を当て俺の手で片方の耳をふさぐように腕を置く。
「全部、にゃにもかもがうるさくて、しんどかったのに…アスランの音だけは安心するにゃ」
「よかった。おまえずっと眠れてないだろ」
「うん、でも、いまは…ねむい……」
「寝ていいから。ゆっくり休め」
しばらくして寝息を立て始めたキラに、もう少し早く来れていればと後悔する。やはり、キラの側にずっといれるように俺もコンパス所属になるべきか。今持っている仕事とこれからの課題や問題などを考え始める。キラが起きるまでかなりの時間があるだろう、それまでに結論が出せればいいなと思いながら頭を回転させていった。