初恋の甘さも知らず まだ朝露に日も当たらない山道、名取は木の陰に隠れるように石段に腰を下ろして待ち人の姿を思い浮かべる。ふ、と吐いた息が白く濁り、冷えた風に掻き消されていく。夜中に冷え込みが強くなったせいで些か薄着とも思われる襟元を引き寄せる。鼻の奥に冷気が沁みて、鼻先が赤らんで見えていないといいなと手の甲で隠した。
土曜だというのに学校に向かうのだろう、幼子たちが息の白さを競いながら通り過ぎていく。あんな頃もあっただろうかと目を細め、いややはり友人との登下校など記憶にないなとかぶりを振った。
こんな早朝に、飛ばした紙人形は無事に彼に届いたのだろうか。力の強い彼のことだ。うまく捕らえられずにまた燃え滓になっているかもしれないと目を伏せて、そういえばあれ以来手が焼けたなんて言われたことがないなと思うとくすりと笑いが漏れた。
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