自分の足で歩くのは、本当に久しぶりだった。だから、石ころだらけで、何にもない河原でもなんだかとても楽しくて。向こうへ渡る橋も無視して、いつまでも歩き続けていた。
そろそろ向こうに行こうかな。そう思った頃にはその橋は随分遠くになっていた。
歩くのはまだ楽しいし、戻るために足を向けたところで、
「俺のアリス!」
その呼び名を、忘れたことはなかった。
「私のリッター!」
ああ、そんなふうに呼ぶのはいつ以来かしら。振り返れば、やっぱり私のリッターが、いつもの笑顔で立っている。
「向こうへ行くのか?」
「えぇ……っと」
頷くや否や、いつかのように抱きあげられる。その熱は、失われる前と同じで、それが嬉しいけれど少し恥ずかしくて。
「私、もう歩けるのよ」
「俺は、君の騎士で足だから」
そんな返事をされてしまって、断れなかった。
ざぶざぶと私の騎士が河を渡っていく。そんなに広くなさそうだったのに、大分歩いてもまだ向こうに着かない。私のリッターが抱えてくれるので、服の裾すら濡れやしない。
──此岸で、誰かに呼ばれた気がした。
「気にしなくて大丈夫だよ、俺のアリス」
「……そうなの?」
行かなくちゃ、行けない気がしたけど、私のリッターが抱えているから戻れない。
「今度こそ、ずっと一緒だ」
「……えぇ、そうね。私のリッター」
今度こそ、一緒にいるんだから。