静寂は来なかった。――その日は、結局来なかった。
馴染んだハンターの匂いがロドスで薄くなった頃から、少しずつ呼ぶ声が聞こえ始めた。優しく穏やかで、静かだけれど、どうしようもなく抗えない声。
ほとんど見えない視界でも、きっとこの声について行けば大丈夫。
そう思わせる、知っている人に少しだけ似た声。
気付くと、何人もの知り合いたちがいなくなっていた。よく爆発音を響かせていた人に、真面目そうなしんもんかん?の人。一緒に遊んでくれたネズミチャンたちも、飼い主さんと一緒に心配そうにしていた。
静謐が、もうすぐ訪れる。
それは、ドクターや先生たちだけじゃない。私たちも気付いている。段々と大きくなる呼び声に段々飲み込まれそうになって、その度に石の痛みで引き戻される。
ドクターは彼と一緒に戦うことを決めたらしい。作戦の参加を決めたのは私の意思なのか、あるいは呼び声に飲まれていたのか、正直分からない。ただ、海の痕や呪いを受けても、それでもそこに行かなくちゃ、と思っていたのは確かだ。
飲み込まれかけた少女を救ったその先。火山の化身を乗り越えた道の奥に、ソレは揺れていた。呼び声の主が彼女だと理解してもなお、ドクターたちのそばに立てたのはソレと同じ彼がいたからだ。足止めくらいの役には立てた……と思いたいが、残念ながらその途中で意識はなくなってしまった。
だから、それはきっと夢だ。赤い海のソレと、青い海のソレ。少しずつ海は青く染まり、ソレ……彼が消えていった。
――そうして、その日は訪れなかった。