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    男主+シドー/ss
    シドーだけが年を取らない。シドーも物作りが出来るようになった世界線。
    こちらの作品に出てくるビルダーは完璧主義がちです。妻帯描写等有り、なんでも楽しめる方向け。
    画像のような所をクリックまたはタップで全画面で読めます。

    ##dqb2_novel

    相棒そういえば、アイツは何とも思わないんだろうか。


    島の他のみんなと同様に、シドーも自分で色々なものを作れるようになってきた。2人部屋には試作や完成品がさらに多く並ぶようになったし、技術面での深い話も交わす。もう、シドーの私物が壊れて、ビルドに修理を頼むようなこともずいぶん減った。
    ビルドは、そんなに喜ぶ?というくらいに相棒の成長を喜んで、応援していた。

    そんなある日、シドーはふと、疑問をみつける。雪でも降りそうな寒い日だった。


    「オマエは、暗い気持ちになったりはしないのか」


    かつての自分――あの時は、ハーゴンの影響が強かったが、つけ込まれる素地は確かにあった――とは違いすぎる、その在り方にシドーはいまさら興味を持った。

    「?」
    「オレとオマエは、役割分担だっただろ。…だから。その…」

    シドーの歯切れの悪い時は、彼の心の中もまた、うまくまとまっていない時だ。大体の事柄はきっぱりさっぱりしているが、こと人の機微や感情に、己の心の動きにも、まだ腑に落ちてないところがあるのかも知らない。

    「オレが物作りするようになって、焦ったりとかは、しないのか」

    「するわけないよ。この世界だって、一緒に作ったじゃないか。破壊もそうだけど…僕は、君がそうやって楽しそうにモノを作るところが見れて嬉しいんだ」

    クルマのメンテナンス作業を中断して、ビルドはシドーの方を向いて話した。これは大事な話だ、と彼も思っていることの証だ。きりりとした眉とまっすぐな瞳。シドーはその言葉に高揚すると同時に、ビルドの瞳の奥にかすかなゆらぎを視た。

    「でも……」

    目を伏せる。握り込んだスパナが鈍く光った。今度はビルドが、言葉を詰まらせる。
    見えていたけど見えていなかった、窓辺の埃を示されたみたいに。

    「……本当に、嬉しいんだ。けど、」

    「そうだね、少し」

    「少し…寂しい。実は。ほら、こないだの…シドーの靴底が外れちゃった時とかもそう。……僕は、シドーのものづくりを独り占めしたかったのかも。ひどいやつだね」

    そういうと、気弱に笑う。シドーはそんな様子に安心したのだった。しょぼくれた肩を豪快に叩いて、

    「ハッハッハ!オマエにも、そういう…嫉妬、独占欲?ってヤツがあるんだな。」

    ビルドはバツが悪いのか、楽しそうなシドーからやや目を逸らし、所在なさげに自分の肩をさする。グローブをつけたままだったので、服に機械油が染みて色が濃くなった。

    「まだまだオマエには及ばないが。オレはいつも、何かを作る時オマエのことを思い出してる。その方がうまくいくんだ」
    「…なぐさめてる?」
    「オイ、卑屈になるなよ」



    ⬜︎⬜︎⬜︎

    時は経ち―――

    ⬜︎⬜︎⬜︎



    「なあビルド、これくらいなら握りやすいんじゃないか?」
    「すごく使いやすい。さすがシドーだ。」

    へへーん!と、シドーは得意満面。

    (まるで自分で作ったみたいだ。癖までおんなじ。そりゃそうか。いつだって隣にいた)

    シドーの作った木製の食器。寄木で上品な柄をあしらわれたそれは、手によくなじんだ。ビルドはまじまじと眺めてその仕事ぶりを味わう。ビルダーとしてのこころが、高ぶっていくのを感じる。そのうち枕元に置くと、すっかり筋肉の落ちた腕をシーツにしまった。

    お行儀よくベッドに収まったっきり、ビルドは黙ってしまった。何かを考え込んでいる。シドーは、これはビルドが何かをめぐらせて、言葉を紡ごうとしている間だと知っている。たいていは、ここの処理はこうだとか、あの時はこうしたらうまく行ったとか、歴戦のジジイビルダーならではの経験豊富なお話が飛び出すところだ。

    ベッドのとなりのクッション椅子に腰掛け、窓の外に目をやる。からりとした晴天は、この先もしばらく続きそうだ。

    「シドーは…僕じゃない。シドーの物作りも、僕のものじゃない」

    シドーは突然何をいうんだ、と驚いたあと、ややムッとした。

    「オレがオマエじゃない?そりゃそうだ。追いつこうと思ったら遠ざかりやがる」
    「違う、そうじゃなくて…」

    頭を振ると、食器が震えてかたかた鳴った。

    「僕はもう、なにかを作ることは難しい。でも、だからってシドーが僕になろうとしなくて良い」

    ベッドシーツの、顔にあたる部分が湿る。ビルドは自分で気づいていないが泣いていた。ありがたいことに、子供も設けたし、よくできた弟子も何人もいる。時間をかけて受け入れた事だと思っていた。でも、口から出た言葉も、それをすらすら言ってしまえた事も、もうなにもかも本当は嫌だ。

    「シドーの物作りは、シドーのものなんだ。これからもシドーは、色々なものを見て、考えて、進んでいくだろ。僕を、越えていくだろ。その時に僕のことで立ち止まって欲しくない」

    次第に絞り出すような声色になる。ひたすらに思い詰めたようなビルドに反して、シドーは普段どおりだ。ほう?と聞いていたかと思うと、オーバーアクションにやれやれ、仕方ないやつだな。と返す。何遍もきいた、優しさの滲む言葉がしみこんで、ビルドの頭はすこし柔らかくなった。


    「墓に入っても物作りしてそうなツラしやがって。そんなヤツの隣にいるオレが、立ち止まるわけないだろ」


    ……。


    「オレが、オマエの技術ばっかり見てると思ったかよ。シンガイだぜ。」


    …………?


    まあ、そういうところはとんと疎いからな、と続けるが、ビルドはイマイチよくわかっていない。
    ただ、シドーの【つよさ】に理由もなく安心した。やっぱりシドーは、強い。なんだか全部、大丈夫な気がしてくる。シドーがいるから、溶岩の満ちる地下だって、真夜中の暗闇だって、遠く宇宙の向こうでも怖くなかった。シドーがいるから、僕はいつだって――安心して物作りをしていける。







    いつのまにか寝てしまったらしい相棒は、ニコニコ、楽しい夢を見ているようだった。起こさないように枕元の食器を拾い上げて、キッチンの戸棚にしまう。子供達も独り立ちして、街の方へ住んでいる。この家は、広すぎる。独りにしておくのはいやだったので、―――が帰ってくるまで、ビルドが作った大きなダイニングテーブルに肘をついて、シドーも眠った。



    おわり
    23.6








    以下読まなくても大丈夫なあとがき









    物作りを死ぬまでしていそうなビルダー。指一本動けば十分だというタイプもいるでしょうし、あるタイミングで、自分の作る物に納得できなくなったり、自身の体力の限界に気付いて物作りをやめてしまうビルダーもいると思います。今回は後者。引退です。
    しかも蓋を開ければ未練がたらたら、なんて人間らしいビルダーなんだろう。

    ビルドは技術的な部分でシドーが自分のやり方にこだわってしまわないかを危惧しました。かなり自意識過剰ですが…長年、共に過ごしてきて積み上げたり改良した技術や手法は二人の間の子供のようなものです。近頃はビルドの代わりにシドーが作ることが多く、なおさら気にしてしまった。(家は別だけど、作業場は一緒…)
    シドーはビルドの物作りへの姿勢もしっかりみて、憧れています。そりゃもう大昔から。もちろんビルドと培った技術より優れたものと判断すればそちらへ邁進します。でも、常にそれはビルドと共にあります。


    私はビルダーにとんでもない強さを感じています。根源は好きな物に対して一直線であるというところで、それを失いかけた時に脆くなってしまうところが見たかったというのがあります。ただ本編で、シドーを失いかけたときに全力で連れ戻しに行ったように、物作りに対してもひたすらに正であるとも思うのですが。もはや人外メンタルである。それも好きだ。二次創作だし人間味を味わってみました。

    ビルドがシドーにとって自身を照らす鮮烈な光であるように、ビルドにとってシドーはこころづよく力強い光であると思います。
    (そして、力強い光であろうとしています。)

    ポイピクくん、小説改頁させてくれんかな。


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