「……む、雨か」
帰路の途中、ぽつりぽつりと降り出した雨に司は眉をひそめる。今日は雨の予報ではなかったはずだがとため息を吐けば、てん、てんと前方から跳ねるように駆け寄る姿が見えた。
「はは、来てくれたか唐傘」
司に懐いてくれているのか、予防外れの雨が降ると唐傘はどこからともなく現れ雨避けにされることを望んだ。司が応じれば、どこにでもあるなんの変哲もない唐傘へと姿が変わる。これが唐傘自身の力なのか狐狸がなにかをしているのかは司にはわからなかったが、ありがとうと笑って柄を手に取ればばさりと傘が音を立てて喜ぶので深く考えないようにしている。
穴や傷ばかりのそれはしかし、雨を一時的に凌ぐには十分で、通り雨に慌てる人々を横目に司は帰路を辿る。その途中、走り抜ける人間に懸命に声をかけては無視されている獣の姿を視認した。一目でそれが妖怪だとわかって、その姿が見えない人々に無視されるのは仕方がないなと司はそれに駆け寄り唐傘を傾けた。
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