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    suika

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    suika

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    原作終了後数年、ヒュンマ結婚した設定です。
    「夢」 の少し前のお話。

    #ヒュンマ
    hygmma
    ##星を抱く日

    月夜ふうと月明かりが差し込んで窓の外を見上げる。
    少し厚くかかっていた雲が晴れて、満月が灯りの消えた部屋の中まで鈍く柔らかい光を届けた。

    「今日、満月だったのね」

    まどろむ瞳でそう言うマァムの少し乱れた髪を梳いてやる。

    「……そうだな」

    そう呟いて、柔らかな月明かりを見つめたままのヒュンケルに、マァムは閉じかけていた瞼を開けて尋ねた。

    「何か、考え事、してる?」

    「……いや。……昔、月をよく見たんだ。城の入り口で」 

    「地底魔城の、入り口?」

    「ああ。あの階段は遊び場だった。そこしか空が見られる場所はなかったんだ……闘技場には、近寄るなと言われていたから」

    マァムは何も言わずに、そっとヒュンケルの頬に触れた。ヒュンケルはその指先を柔らかく絡めてしばらく見つめた後、微笑む。

    「……父さんが、太陽と月の読み方を教えてくれたんだ。いつかここから出ていく日が来るから、と」





    『そと?』

    『そうだ。お前はいつか剣を持って、外の世界へ行くだろう。目指す方角はどちらなのか、空を読めるようになるんだぞ。太陽と月が読めれば、外に出ても、迷うことはない』

     深い穴を螺旋に回って外へとつながる階段の一番下から、二人で空を見上げる。まるく切り取られた夜空には、吹き流したように星がいっぱいに瞬いていた。真ん中に浮かぶ白い満月を指差す父の指先を見て、湧き上がる興奮を堪えきれずにヒュンケルはその場でぴょんぴょんと跳ねる。父の真似をして背負った剣が背中でかしゃかしゃと揺れた。

    『いつかって、いつ? 外、行ってみたい!』

    『今はまだ、だめだ。一人で剣を扱えるようになったらな。……外には色々な事が、待っているから』

    『えー、すぐがいいよ。剣の練習、頑張るからさあ』

    『負けて泣くようではまだまだだぞ』

    骨の顎を鳴らして笑う父に、だって負けたら悔しいもん、とヒュンケルは膨れた後、しかし子ども特有の切り替えの速さで父の腕にぴょんと飛びついた。

    『じゃあさ、その時はいっしょに行こうね!』

    しがみついた腕を軽々と持ち上げられる。うわあ、と高さにはしゃぐ自分に父は微笑んで、黙ったまま別の腕を伸ばして頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。






    「子どもだったからな……本当に、一緒に行けると思っていた」

    その沈黙の理由に気づいたのは、会えなくなった後だった。肯定も否定もしなかった、その父の想い。
    マァムはそう呟く頬に触れたままの指で、もう一度そこを撫でて微笑んだ。

    「剣を扱えるようになったら、って言っていたんでしょう? ……じゃあ、一緒にいたと思う。あなたの、剣を扱う心の中に」

    「……」

    最初から、父は心の話をしていたのかもしれない。暴力ではない、自らの心に振り回されるのでもない、剣を――力を正しく扱うその心。それが備われば、「外」に行けるのだと。

    「……そうだな」

    肩越しに窓の外を見ると、紺色を滲ませた夜空にまるい月が浮かぶ。あの日と同じ、真白に光る円。

    マァムがそっと身体を寄せる。腕の中に包み込まれて温もりに額を埋められて、瞬きをした瞼のその裏に、淡く輝く月が残った。
    指先が銀色を梳く。感じる穏やかな吐息が自分の鼓動と溶け合うのを感じながら、そっと目を閉じる。


    円に溶け合う二つの鼓動。その真中に命を宿す、新たな息吹。



    それに気付くのは、まだ少し、先の事。
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