指輪「ボクと結婚、してください」
すう、と美しい仕草で差し出された両手の中に収まっていたのはきらきらと金に輝く、指輪。
「……あ?」
思わず口からこぼれた間抜けな声。指に引っ掛かけた空のジョッキがぶらりと揺れる。
久しぶりに街まで行った買い出しの帰り。どうせルーラで飛べるから、と都会でしか買えない高めの酒も買い込んで、二人で酒盛りなどを始めたのが夕飯の後。
そこそこ酒も回りきって、とりとめもないくだらない話をして二人で笑い転げて、机に突っ伏して笑いを堪えているのかと思ったイレブンがふいに神妙な顔をして取り出したのだ。指輪を。
「……なんちゃって!」
吹き出すイレブンは、まださっきの笑いの余韻を引きずっているのか目の端に多少の涙を浮かべたままだった。
「またそのネタかよ、お前」
オレも一緒に吹き出して、イレブンの手のひらにころりと乗った赤い宝石のついたリングを手のひらごと目の高さに持ち上げて吟味する。あの旅の間、来る日も来る日も武器やら防具やらを作り続けたコイツの腕は、今や王宮付きの鍛冶屋になれるレベルで上等だ。
「見せてみろよ。すげえな。これ、+3だろ。ずっとここんところ作ってたの、コレだったのか?」
「何度も打ち直して頑張りました。効果はばつぐんだよ。受け取ってくれる?」
もう一方の手でそっとリングを取って恭しく一礼をする姿は完全に様になっている。
「またオレが花嫁役か?」
「ごめん。嫌? 逆にする?」
「そういう話じゃねえんだよ」
笑いながらそっとイレブンに手を取られる。流れるような優雅な動きは酔っ払いのくせにさすがは元、王子様。いや、今もなのか?
「……ボクと結婚、してください」
イレブンの瞳がこちらを真っ直ぐに見て、完璧な仕草で微笑んだ。
「……もう、してるだろ」
酔うとたまに仕掛けてくる冗談まじりのこの一言に、毎回毎回、顔が熱くなってしまうのはどうしてだ。